第4話 今から百年ほど前

 今日はこの状況にちなんで歴史の授業となった。

「今から百年ほど前、風が吹き始めました」

 年配の学年主任が話し始めた。


 大きい理科実験室。

 高学年すべての生徒を一か所に集めた。

 すこし窮屈だけどこれも節電のためだろう。


「みんな知ってのとおり、昔、人類は地上に暮らしていました。人類誕生以来ね」


 教師は機械的にそう言った。

 実感がまったくともなっていない。

 僕らは地下に潜ってから三世代になる。


「記録によると…」

 教師は目を教科書に移した。

「最初の突風は北アメリカだったそうです…」

 前面の巨大モニターに倒壊した家屋の写真が映った。


「被害は甚大で範囲も広く、まるで戦争のようだったそうです…」


 戦争…

 これも実感がない。

 地下生活になってから人類は戦争をしていない。


「突風が三日続いたあと、すぐにそれはヨーロッパ、アフリカ、アジア、オーストラリア、そして南アメリカにも吹きました」

 かっての世界地図を指しながら教師は言った。


「人類は驚愕しました。台風並みの強風が一瞬にして世界中、くまなく吹いたのですから…」


「家屋もそうですがビルのガラスが割れ、家畜も農作物も死んだり倒れたり…

食べ物が急速に不足したそうです」

 配給に並ぶ人の写真が映し出された。


「でも世界はまだなんとかなると思っていたようです…とりあえず三日で風は止まったので、こんな“異常気象”は続くはずはないと…」

 変な感覚…

 なんかただ知識を話しているだけの教師が情けなくなってきた。


「しかし突風は三か月後また吹いたのです…」

 どこかの国のタワーが倒れる動画が映しだされ、海が荒れ、橋が落ち、車や電車の横転した写真も映った。


「今度はどこの国でも一週間ほど続きました」

 表が現れた。


 人的被害と物的被害の膨大な表が…

「世界的に救助の輪が広がりました。

世界は食糧、生活、それ以外のことにお金や人を回す力をなくしました…」


 一人の生徒が手をあげた。

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