何でも言うことを・・・

孤兎葉野 あや

何でも言うことを・・・

「アカリ。この『何でも言うことを聞く券』というのは、こちらの世界でよく知られたものなのですか?」

私の隣で、本を読んでいたソフィアが、こちらを向いて尋ねてくる。


「ああ・・・少なくともこの国では、子供同士の遊びで、そういうものをやり取りすることはあるかな。もちろん、子供のすることだから、それで依頼される内容も、大抵は可愛いものだろうけど。」

私は幼い頃、そういう遊びをしたことはあったっけ・・・はっきりとは思い出せないけれど、そう遠くないどこかで、そんなやり取りが起きていても、おかしくはないだろう。


「ただ、私が今読んでいる物語ですと・・・」

「うん。実際にそんなことが起きるかどうかは別として、大人になるくらいまで成長した登場人物が、子供の頃にもらった《それ》を持ち続けていて・・・なんて話も出てくるね。

 その人達に昔から繋がりがあったことが、読む人にも伝わりやすいんじゃないかな。」


「なるほど・・・私の元いたところでは、そうした遊びはありませんでしたね。育った場所の影響も、あるのかもしれませんが。」

「ああ、ソフィアは神殿だったよね。子供らしい遊びは、少なかったのかな・・・」

少しだけ、淋しそうな表情が笑顔に交じるのを見て、一つ思い付いた。


「ねえ、ソフィア。折角だから、私が前にその券を渡したものとして、何かしてほしいことを言ってみない?」

「えっ・・・アカリからは、いつもたくさんもらっていますし・・・私達が子供の頃に、会うはずは無いのでは。」


「まあ、それはその通りなんだけど・・・もしもそうだったとしたら、ということでね。」

「は、はい・・・・・・でも、一つ思い付きました。」

少し考えた後、ソフィアが笑みを浮かべ、本を机の上に置いてから、私の傍に身体を寄せてくる。


「アカリ・・・私を、好きなようにしてください。」

顔を赤らめ、私の服をちょっとつまみながら、上目遣いと共に、その言葉を告げた。


「もう、そういう言い方を、すぐに覚えるんだから。寝る前がいい? それとも、今がいい?」

「それも、お好きなように・・・」

「うん、分かったよ。」

ソフィアの身体に手を回し、寝台に運ぶことなく、その場に横になって重なり合う。


「少し、行儀が悪いかな。」

「ふふ、いいんですよ。アカリの思うままで。」

二人で微笑みながら、ぎゅっと抱きしめ合って、私達は唇を重ねた。

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何でも言うことを・・・ 孤兎葉野 あや @mizumori_aya

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