ゲ・ラ‼︎
紫が字
第0話 終わりから始まるプロローグ
何だ?何だ?と、人々が振り返る。
そんな人々の間を縫って、一人の少女が風を起こしながら駆けていた。
間を通られた人間は、何が起きているのか分からないまま、風を起こした少女を見送った。
おおよそ人間が出せる速度とは思えない速さで駆け抜ける少女は、陽の光を短い白髪に受けてキラキラと輝いている。
休まず走り抜けていた少女は、赤信号に捕まると、足踏みをしながらスタートの合図を待つ。
時折、腕時計で時間を確認しているところを見るに、タイムリミットが迫っているのかもしれない。
車たちが停止し始め、いよいよ走り出すという時に、何処からか悲鳴が聞こえた。
少女が足を止め、悲鳴の聞こえた方向へ振り返る——。
——ガッシャーーーンッ‼︎
少女の背後にあった服屋を突き破り、大型のトラックが現れる。
ガラスの破片や、衣類、マネキンなどが飛び散り、その様子を見た少女は目を見開いた。
叫び声を上げる間もなく、少女はトラックの体当たりを正面から受けて弾け飛び、何回かバウンドを繰り返して停止した。
少女の着ていたスーツは破れ、腕時計も割れていた。
人々は騒然としながら、少女の様子を窺う。誰も彼も、少女の死を疑っていなかった。
しかし少女はバッと起き上がると、自分の身なりを見回して「嘘だろ⁉︎ マジかよ……」と叫んだ。
「あの……。お嬢ちゃん。大丈夫……なの?」
一人のマダムが少女に恐る恐る話しかけた。
少女はその声に振り返ると「……? 何がですか?」と逆に問いかける。
「ええと……。貴女轢かれたでしょう? トラックに」
「あー……。まぁ、大丈夫っすね。自分頑丈なんで」
そうケロリと答えると立ち上がり、ため息をつきながら歩き出した。
「はー……。こんなんじゃ行けねーじゃん。急いだのに、けーっきょく初遅刻かよ……」
そう言いながら、少女は自分を引いたトラックに視線を向けた。
そして次に、その下に散らばるスーツに注目する。
「いや、待てよ……?」
少女は悪い笑みを浮かべると、トラックに向かって走り出した。
そして、運転席にいた放心状態の運転手に向かって「おーい! おい! 私を轢いた人!」と大声で呼びかける。
「ひぃ⁉︎」
「ねぇ。轢いたことはチャラにするからさ。新しいスーツと腕時計の金、出しといてよ!」
「え、あ、あの」
「よろしく!」
そう言うと少女は、店内からパンツスタイルの黒いスーツ一式と、シンプルなアナログ腕時計を取って、走る準備を始める。
「まーだ時間はあるし、諦めないぜ」
少女の瞳がキラリと光ると、先ほどよりも速い速度で、唖然とする民衆の間を走り出した。
駆けている。
何よりも速く。誰よりも速く。
少女は、何処かの国の白兎の様に駆けている。
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