011//映画じゃない
走りはじめて1時間ほどが経つ。 運転をつづけるユキはバックミラーで後ろの席のシロウを見る。 ええぇ…… 寝てやがし。爆睡だし。
助手席のイチヲは外を見たままだ。
なんかちょっと気まずいな、
ユキが思っているとイチヲが口を開いた。 なんだかせつなくなる声で。
「夜中だってのに車多いねー」
ユキはなにも答えずハンドルを右にきる。 なんとなく答えない方がいいような気になっただけだ。
代わりにユキは、
「リョウは......旅に出たかったのかな? 私とかそうゆうものから離れて1人で旅に....」
なおも外を見るイチヲ。
「この車の中だけでもいろんな想いとかを乗せてんだよね」
しみじみと言うユキにイチヲはやっとユキの方を見る。
「まあな。 うん なんか映画のセリフみたいだな。 ってことはこれは映画の1シーンか?」
一体オレはなにを言ってるんだろうとイチヲはふと思う。
これなら沈黙していた方がよかったと。
でもなんとなく違う話に持っていきたかっただけ。
だからまた口を閉ざし代わりに自分の言った言葉について考えるイチヲ。
そういえば人生は映画のようだって誰かが言ってた。
誰が言ってたか覚えてないし、ひょっとしたらいろんな奴が言ってるような気もする。
そのへんはいい加減。 でも そう、いい加減なもんなんだよ。人生だって。
まいったね。 ことごとくね。
別に深い意味はないし、深いことを望んでもいない。
でもどうやったって生きてる限りこの人生っていう道の上に立ってるんだ。
それはメチャメチャ大笑いしながら大手を振って歩いてようが、泣きっ面で猛ダッシュしてようが、思わず逆走しようが、じりじりと後退してようが、足取り重くうつむいて進んでいようが、そこに立ち止まってようが、フハハハハッ 道の上にいるんだ。
「この道であってる?」
ユキがナビを見ながら。
「たぶんね」
そっけなく答えるイチヲ。
この道。 正しい道? でもはみ出したりしても実はそこにも道があったりもするしね。
で、だ。 イチヲはそこまでいろいろ考えてまた後ろのシロウにも目をやった。
まっすぐ思いっきり突き進んでいく奴はそのまま爆進すりゃあいい。
口をポカ〜ンと開けて眠るシロウを見てイチヲは思う。
オレらはかなりフラついている。
間違いながら、失いながら、手にいれながら、フラフラになって進んでいる。
ただ、それだけのこと。
それだけのことだけどこの人生というロードムービーの中じゃ理由ってやつがいっぱいだ。
フラつく理由。 フラつきまくりのロードムービーの理由。
「どうしてリョウは離れたのかな?」
ユキの不安そうな声。
「さあな....でもアイツもその理由を誰かに聞いて欲しいだけだよ」
イチヲはサラッと答えたがユキはなんのことかわかってない顔だ。
フラつく理由を.......
だからあえて大声で、時にボソボソとその理由について語っていこう。
「なっ」
イチヲは笑顔でユキに声をかける。
ユキは驚いて曲がる交差点を間違えてる。
また沈黙がつづく。
でもさっきまでとはその質は変わっていた。 イチヲの中でだけだろうけど。
なぜか満たされた思いになっているのを感じるイチヲ。
ほんとはなにひとつ満たされてはいないけど。
その満たされないことすら、今なら素直に喜べるぐらいの気持ちが沸き上がる。
そしてどうゆうワケかキュウタも今、同じ気持ちのはずだと、まったく疑う余地なく微笑むイチヲがいた。
ボードを積んだ車が横を通り過ぎて行く。 信号が赤に変わる。
ユキはブレーキを踏んで、小さくなるテールランプをボンヤリと目で追った。
今のブレーキで起きたのか、シロウが少し前に乗り出して口を開く。
「今どのへん?」
ユキが振り返り、オハヨウと皮肉まじりに言う。
「オハヨーッス」
シロウにその皮肉は届かなかったようだ。
信号が青になる。
「もうほんと寝ないでよ」
「だからー 今どのへんだよ」
シロウが繰り返す。
イチヲは前を見据え答えた。
「さあ、 知らね」
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