005//そこから見える景色で泣く
結局、ライブは警察沙汰になり何人かのパンクスは連行されていった。
救急車も駆けつけ割と大事になった。
次の日には、いろんなおヒレがついて話は街を駆け巡っていく。
そう、次の日。
街を流れるガトー川の河原。
イチヲが恋をして友達に相談したら『頑張れよ、いけるって!』と励まされ元気100倍!とか
思いきやその相談した友達と惚れた女の子とのカップル誕生!という悪夢のような現実を横っ面にフルスイングでイレられてる時も。
泊まったオンナの家にウサギがいて夜中ずっとケージをゴリゴリゴリゴリその歯で擦るから
全然眠れなくてそのまま寝不足の目をウサギ以上に擦っていたシロウが缶コーヒーでどうにか眠気を飛ばそうとしている時も。
この河原でダラダラ過ごした。
すぐそこには繁華街の喧騒があるけど、この河原にはその光も届かず妙に薄暗くて静かだ。
近くに大きな橋がある。
その橋の上を行き交う自動車や歩行者を眺め回しては、リンネがひたすらロケット花火をその橋めがけて撃ち込んでいるリンネ。
「おーいリンネ~。もうやめろって。昨日のことムカついてんのわかるけどよー……それマジで気狂ってるから」
イチヲが頬の傷を撫でながら。
夜の11畤過ぎ。風は温く、月は明るい。星は見えない。薄い雲が少し流れる時。
「てかリンネ! お前マジでもうやめろって! 普通に捕まるから!」
イチヲががなる。
橋から1人の歩行者がゆっくりと横の階段を降りてくる。
「おいおい、こっち来んじゃねえか」
シロウというこれも学生仲間ががあくび混じりに言う。
逃げるか、逆切れという理不尽極まりない方向性に打って出るか、それとも素直に謝るか。
結論を出そうとリンネが一歩前に出た時、イチヲはすっとんきょうな声を上げる。
「スパンクゥ!?」
スパンク? ひょっとしてあの歩行者はスパンクだったのか?確かにその通りだ。
シロウが缶コーヒーを飲み干し立ち上がる。
「スパンク!すげえ怪我だなぁ。めっちゃヤラれたな」
見ると確かに顔にアザを作ってるし肘も擦り切れてる。
「ああーお前のことだからまたゴミ箱漁って野良犬とでもケンカしたんかと思ったわー」
そうだ、なぜか。な・ぜ・か・そこにいるノリスがそうスパンクにむかって吐き捨てるように笑った。
そうゆうくだらない冗談は時と場合を考えて欲しいもんだ。とイチヲは内心思いつつスパンクが笑ったのを見逃さなかった。
「いや、どうやら野良犬は俺らしいよ」
と呟くスパンク。
どうゆう意味なのか。その場にいた全員がわからなかった。
スパンクは夜空を見上げてため息。
――野良犬のまんまじゃ誰も守れない。
「あっお前ユキと河原でヤろうとして河原なんて蚊とか変な虫いるから嫌って殴られたんじゃねえの?」
またくだらないことをノリス。
「いや、それならこれ殴られすぎだろ。だいたいスパンクは昨日……」
イチヲが観点のズレたツッコミを入れるが。
「いいんだよ。その方がいくらかマシだわ」
そう言ってスパンクは置いてあったロケット花火を手に取りライターで火をつけた。
そのまま真上に飛んでいき音もなく消えてしまった。
「今日は月がキレイだなー」
スパンクが夜空を見上げたまま誰にともなく言う。
確かにキレイだ。
「あのまま月まで届けばいいのになー」
「スパンクぅ。それは無理だよー。ほら、一緒に橋歩いてる奴打とうよ」
「いやだからやめろ、リンネ! マジで狂ってんのか?」
「んああ! 悔しいでしょうがぁ!」
まあ、狂ってるな。
リンネの左手目元にも青あざ。
そもそも嬉々として乱闘に参加してたけど。
「どうせなら俺が飛んでいきてえよ」
またスパンク。
どこまでも飛んでいければいいのに。飛べればいいのに。
あの月を掴めればいいのに。鳥のように自由に飛び回れたらいいのに。
「でもな。鳥は自由になんて飛んでないよ。飛ぶしかないから飛んでんだ。きっとな」
スパンクが口元の傷を痛そうにしながら笑った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます