004//轟音は擦り切れるダイヴ

ドキドキしてるのがわかるかい?

ワクワクしているみんなに聞いてるんだ。

今から起こるすべてのことに興奮をおぼえている。


時計の針がその時を示すんだ。

そして金髪坊主は高く飛び上がった。

少しぬるいビールで乾杯をしたらターンテーブルで回ってる『危険』に針を下ろす番だ。


楽しくて仕方ないって、そんなこと言わなくてもお前の顔を見ていればすぐにわかる。

ビールの苦みに少ししかめっ面をしてあの娘に視線をやる。

言葉が蘇る。ただ、頷いたのを思い出す。



「人生はクソだよ」

頷いた時にそのまま時間を止められた。

世界はハイスピードなのに。クソみたいな人生。


生きる意味も考えたことないようなそんなインチキ占い師に言われたくないね。

クソならクソで考えればいい。どうしてそいつがクソなのか。

ターンテーブルの『危険』が答えを知ってると思うかい?

そして考えてみるんだ。

あの娘から視線を外すと今度は数人が飛び跳ねている。

わめき声が聞こえる。

音量を上げても何も変わらない。

さあ、まだ興奮は続いている。

みんなワクワクし続けている。



格好ばかりキメこんでただ悪態をついてるだけなんて面白くないじゃないか。

もっと楽しくやればいい、シンプルにそんな風に思うだけ。



『人生はクソだ』だってたいていのパンクやロック気取りの奴が好むような言葉を吐いたリンネがハイボール片手にフロアを彷徨いてるのを横目にしてスパンクはぼんやりする。


ふと、ユキが視界に入った。

サラサラのロングヘアに赤いライトが当たって妙に浮いている。

きっとこうゆう場には合わないんだろうなとスパンクは思うが、友人と笑いあってるユキを見てる一応ホッとしながら、


「俺って割と清楚系好きだっんだなー」

とか独り言。

まあ周りからはまったく不釣り合いなカップルとか言われてるけど。



「ファァァッックッ!!」

轟音混じりにそんな雄叫びが耳に飛び込んでスパンクは我に返る。

われに返らない方がよかったかもしれないけど。


ビールが入ったカップを渦巻く客席に投げ込みスパンクはダイブする。

金髪坊主がその後を追う。



祖末な狭っ苦しいステージ。簡素で照明なんてほとんどないステージが少し明るくなる。すえたニオイが漂う。

歓声。

スパンクお目当てのバンドの登場。ハウリングが絡み合った。


しかしスパンクはそれどころじゃない。

金髪坊主に肩を掴まれそのまま例の青いバンから降り立った狂暴な猿達に囲まれていた。


格好ばかりの連中とスパンクが嫌う連中だ。

ステージから遠く離れフロアの隅の方で残虐な、退屈しのぎのオモチャにされていた。


ステージに上がり出す猿共。

ボーカルが制止しようと腕を前に出すがそれを捕まれ引きずられる。

暴れ尽くす。

どうやら猿共は、このステージを潰す気らしい。

ギャングを気取ってるだけかもしれない。

昔はよくあったバンド同士の派閥によるケンカを再現したいだけかもしれない。

もしくは、安いクスリで頭がやられてるか。

まあきっとその全部だろう。

理由なんて聞いたところで納得いくもんじゃないだろう。

スパンクの仲間が血まみれになって転がる。

ステージではギターが鼻を抑えて膝立ちだ。

ふと見るとフロアの乱闘の中、ユキの顔面にも拳が飛んでる。

手を伸ばす。まったく届かない。

金髪坊主が馬乗り状態。

舌打ちすらできない。


スパンクの意識が薄れていく。暗くなる。暗くなる。

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