そして、海には辿り着かなかった
ねりんなぁりぃ
001//適当にその場をやり過ごす程度のパワー
「え?どうして?」
「それは・・・それはぁ、だから青春とゆうものが苦しくて痛いから!?」
「青春!セイシュン!!あははっ!相変わらずなんかやばいね〜」
「ぬははっ。いやいや、うん、ヤバイの。私。だめなんよ。ヤバイと」
「どうゆう風に?」
「ただもうおかしいだけで。なんつうか? ちょっと前はクスリ、ああ、このクスリはあれだよ鎮痛剤とかのね。
そうゆうクスリをかなり多めに飲んでさ、ウイスキーで流し込むんだ。飲むペースとか考えずにもうガツンガツンと。
瓶ごとストレートで流す」
「ええ? もうまだそうゆうことしてんの〜〜」
「まあ、ね。でも身体張って地獄を見るんだよ。でないと正気で地獄見ないといけないし。
そうこうしてると頭がグンルングルンなって鼓動が激しくてもうこれBPMなんぼ?200?250?とかになってきてさ。
で、気づいたら朝になってて、ああ〜生きてるぅーって喜びをそこで噛み締める」
「なにがそうさせてんのよ?」
「なにが?ん?んんー?なんだろ?」
「やっぱ馬鹿だね」
だから、だから、だから、退屈し切きっていた。
いや、少なく見ても周りには完全にクチからエクトプラズムが出る勢いで退屈と戦ってるのが数人はいた。
キャバクラ『エティカロナ』
いわゆる大箱と言われるような規模の店で黒を基調としたホールとは打って変わって薄汚れたオフホワイトの壁には指名本数グラフが貼られてるバックヤードにいる。
伸びない自分の指名本数を見て気分が破綻したのか、馬鹿扱いされながらわけのわからない話をしていたのがリンネ。
大学生だけどバイト感覚でキャバ嬢をしている。
なんとなくリンネの頭によぎったのは虚言癖のある変態に憧れる凡人なあの娘の笑い顔。
ああー私もそんなふうに思われただろうなとか思いながらため息。
「でもさー、朝目覚めた時にすべてに感謝できる生き方ってのもそれはそれでアリかもね」
慰めるように言うのがモモコ。
リンネと同じく大学に通ってるがこちらは本日も同伴してきて指名本数も今月安定のナンバー2。
実のところこんな調子で幼稚園から一緒の仲。それで今も同じ芸大に通ってるんだから幼馴染であり腐れ縁でもある。
――でも、そうか。そうゆうことだ。
SKA好きの友達があの娘のために駅のホームからジャンプする。
未来を蹴飛ばすかのように高く高く足を上げて飛び出すんだ。
「俺達に与えられてるのは適当にその場をやり過ごす程度のパワーだけだからね」
バイクにまたがって微笑むギター弾きの話だ。
「善と悪ってなんだ?」
薄暗い廊下で座り込みそいつは瞳を曇らせる。
誰が笑える?誰が答えを持っている?
「見事に人を傷つけな。弱い奴なんて蹴飛ばしな。リッチに人を見下しな」
オールディーズに熱を上げるアイツのレッドウィングはキレイなままだ。
OK。そいつはまだ自分が蹴飛ばされる側の人間じゃないって思い込んでるだけだ。
で、何も終わっちゃいない。
60年代に狂ってるあの娘は金切り声を上げて走り出した。
もちろんフラついてるけど。
きっと料理が大好きだって言ってるあの子の赤い髪はキレイだよ。
だけどなんの中身もないままだ。
公園で寝っ転がって道行く人々に期待しながら太陽の高さにイラついてた。
工事現場の柵を越えて。
・・・・・・・・・・・・
「もうすぐ夏だなー」
きゅうに現れたお店のマネージャーがあくび混じりに。
「それがどうしたっていうの?」
リンネはポツリとつぶやく。
「いやーあれだな。もう夏だな。めちゃくちゃ暑いもん。さっき坂んとこの桜。
あっこで蝉ボトボト死んでたよ」
「はぁー?じゃあもう夏終わり間近じゃねえのか?」
マネージャー同士が妙なテンションで喋りながらバックヤードを後にした。
「そんじゃアタシお客さん待たせてるから」
そう言ってモモコも出ていった。
薄いピンクのミニワンピドレスが可愛い。胸元にリボンまでついてるし。
それが似合う程度にはモモコは可愛らしい系の女子だ。
リンネはまだボーッとしたまま。
「おーい、リンネちゃん、もう今日予定ないなら上がっていいよー」
と、店長が顔を出す。
そうだな、終わりだ。
店長は笑顔だけど、ボーっとしたまま時給だけを食う存在なんて終わりだ、と怒鳴りたいところをグッと堪えてる。
あれ? まさかもうはとっくに終わってることに気づかずに生きてるんだろうか?
いや、そもそもなにが終わるっていうんだろう!?
と、リンネは立ち上がり頷いた。
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