瀬奈のウラの顔

 とある休日。


 私とは違い、瀬奈は今日も仕事をしている。確か週刊誌のグラビア撮影だった気がする。どんな衣装なんだろう、気になる。


 瀬奈には衣装見せてとLINEを送りつつ、私はいつもの場所に行くための準備を始めた。




 午前十一時、新宿から高崎へ向かう電車内で新曲の確認をしていた。この曲はlune de mielでは初めて、瀬奈と私が作詞作曲した楽曲で、アイドルというにはあまりにも色の違う流行の反対を行くバラード曲だ。


 作曲は瀬奈、作詞は私。といっても、クレジットには載らない方々のサポートあってレコーディングまで出来るんだけど。この業界ではよくあることで、ゴーストライターなんて山ほどいる。超が付くほどの作曲家や作詞家でも実際は書いていないことがある。


 元々、私もゴーストライターだった時期があるからよく知っている。アイドルになる前の私はそれが嫌で命を絶とうとしたぐらい。


 高校生の頃、あるラノベの公募の最終選考までいったことがあった。それが何故か有名作家の目に留まり私に業界で経験を積まないかと連絡してきた。


 母に相談したときは反対されたが、くどいぐらいの説得の甲斐があって許してもらえた。それからというもの、私に来た案件は私自身の名前が出ないものばかりで、二十歳になる頃には何をしてきたんだろうと心が壊れる直前だった。


 そんなときに一度歌詞を提供したことがあるアイドルが所属する事務所の社長に声を掛けられた。瀬奈と出会ったのもその頃だ。さばを読むこと、芸名を使うこと、そして今までの活動をなかったことにすること、この三つの条件を吞むことで表舞台へと活動を変えたことがいまに繋がっている。


 lune de mielとしてデビューして二年後、いまから大体二年ぐらい前に最愛だった母が倒れたとマネージャーから音楽番組出演後の楽屋で聞かされた。母子家庭で育った私にとって家族と呼べるのは母しかいなくて、すぐに病院に向かったけど死に目には立ち会えなかった。


 それからというもの、私は何も手に付かない状態で仕事をこなす日々を浪費していた。時にはお酒に逃げながら。


 仕事の裏でやさぐれていた私の姿を見かねた瀬奈は、二人きりのレッスン場である告白を伝えてくれた。


 『……異性に興味が持てない』と、そのせいでいじめにあっていることも。




 今日は母の月命日、私はどこまで墓前で正直になれるんでしょうか。

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