第7話 夢想天元②

 時刻は先ほどの100年ぶり二度目のドッテパラ風穴パンチからラウンド2は少しばかり先になる。

 ハザクラは自分を取り囲み獣たちに困惑をしていた。一切の気配を感じさせずにこいつらはどこに潜んでいた。村の連中以外に動きはなかった。いまだレビューサを抱えたおそらくはこいつらのリーダー格は屋根の上からのこちらを覗き込むばかりで動きはない。

 正直こいつらが何者なのかはわからない。しかしニンジャの身内に手を出したのだ。相応な覚悟は持っていると判断する。

 しかし、こいつら獣たちはこちらに襲い掛かってくる気配があまりない。どこかおびえたようなまるでこちらを殺しにかかるというよりも、なにかを恐れるような様子を奴らは浮かべる。


(俺の実力なんて大したもんじゃない。こいつらが恐れているのは……)


 上にいるあのリーダー格にほかならない。雰囲気からしてこっちとは俺ともこいつらともわけが違う。レビューサには悪いがこの手でいく。

 ハザクラは自身の隠しポケットからこっそりとなにか球状のものを地面に落とすと同時に目元を隠す。球体は地面に触れると瞬間的にフラッシュをおこし辺りを光で包み込む。その球体の正体は彼特製の閃光弾であり、その光をまともに見れば目をつぶっていたとしても半日は目が焼けれてしまう威力を持っている。

 仲間のレビューサに対してもなにも教えずに突然の使ったのが効き、その場にいる獣たちの目を酷く焼いてしまう。

 が、レビューサもなんやかんやこの忍者にあこがれる変人と10数年は一緒に過ごしてきた仲である。彼の僅か動作から閃光弾を使うことを読み取り目元を羽でとっさに隠す。

 光が収束したころに立っていたのはハザクラただ一人であった。

 獣たちはすべてその場で無力化され、ぱたりとその場に倒れこむばかりであった。しかし、そいつはハザクラとしても予想外ものが出てきた。

 獣たちには自分制作の特殊な麻酔薬を打ち込んだが、奴らが気を失うと同時にその肉体はどんどんと人間のような姿へと変わっていく。


「こいつは……?」


 ハザクラはこれがわからなかった。ばあちゃんならばきっとわかるのだろうが、こいつらは人か?獣か?ともかく彼は自身の殺しではなくあくまで眠らせ、戦闘力を割くことを選んだ自身のの選択に安堵する。

 その顔を見ていくことにあることにハザクラは気がつく。どいつもこいつも村で見た顔ぶれであることに。だがハザクラにそこになにか申し訳なさは感じなかった。

 正直感情は揺さぶられない。だがしかし、彼らがなぜこんな姿で自分に押しかかってきたのかという疑問は生じる。今すぐたたき起こしてといただしたい所だが、そいつはそうは問屋が卸さないらしい。

 自身の背後からする駄々洩れな強者のオーラがのしかかる。


「アニキ!」


 レビューサの声が聞こえる。彼女は縛り付けられ、ひどく乱雑に地べたに放置されていた。


「あんたなにもんだ?」


 ハザクラは恐る恐る後ろの化け物に問いかける。野郎、レビューサが目元を隠したのをみて瞬時に閃光弾を使うと見抜きやがった。多分目のほうも無事だろう。

 そう問いた同時に自身の腕の刃で切りかかる。ぐちゃりと鈍い音が腕の先からの神経を通して感じる。

 初めての感覚だがわかる。自分の腕が捻り潰され、そのままひっぱりあげられているのが。


「おめぇのばあちゃんに用があるだけの一般的な魔族だよ。」


 その言葉と同時にハザクラの右腕はもぎ取られる。だがハザクラは直ぐに態勢はそのままに残った左腕でわき腹に一撃を乗せようとするが相対する獣は軽くこぶしのよるケリを三連撃をハザクラの顎に一発腹に二発与えるとそのままの勢いで体全体を回す豪快なラリアットをかましそのままハザクラは断末魔を上げる隙すらなく建物に叩きつけられその場に倒れる。


「ちっ!張り合いがねぇなぁ。まぁいい。おい!」


 化け物の掛け声で森の方から獣たちがのろりと現れる。恐らくは隠れていたのだろう。そのまま化け物はそいつらに命令を出す。


「そいつを片付けろ。方法は問わん。」


 そのまま化け物はハザクラのことを部下に任せて宿の方へと足を伸ばす。


「おい!なにが目的だよ!こんなことしてまで何がしたい!」


 レビューサは海苔巻き状態でも生意気に化け物の方へと啖呵を切る。彼女は自分の後先など考えず言いたいことは真正面からいうタイプであった。

 そしてその言葉は勿論化け物の耳にも届いていた。


「おい。羽根つき娘。おめぇ勇者の仲間だよな……?使えるか。」


 そういうと化け物はヒョイとレビューサを担ぎ上げる。


「おまえ!なにをする!それに勇者ってなんだよ!」


「あ?勇者はおめぇ所のエルフ意外にいんのかよ?ぁのガキは違うしおめぇも多分違うだろ。」


「あの人が勇者なわけあるか!魔法は使ってたけど剣を使ってるとこなんか見たことない!というかアニキを殺す気か!ふざけんな!突然現れて!」


 ピーピー騒ぐレビューサにイラついてか化け物は彼女の腹を軽く殴りつけ始める。


「がぁぁ……!」


 彼女のは思わず今日の晩飯の残骸が喉奥から漏れ出す。化け物は彼女の胃酸が尽きるまで何度も殴りつけ、黙り込んだら満足したのかそのまま引きずるようにどこかへと持っていく。






 時間はそれから長針が二回転をしたくらいだろか、そこには化け物のどってぱらにパンチをかますエルフ、カンナの姿があった。

 だがしかして、そんな化け物も強者の姿はどこへ行ったのだろうか。

 化け物はこの瞬間に至るまで彼女に勝てると思っていた。それはなぜか?

 単純話である。「100年もたてば奴も弱くなっているだろう」という、浅はかな考えからである。

 実際のところ彼女は確かに100年前よりは衰えた。彼女の全盛期と呼ばれる時は勇者と呼ばれていた時である。

 退魔の剣という魔や邪気を払う聖剣を振りかざし、雷撃を操る魔人や神と見紛う強者としての風格を持っていた。そして何より精鋭とも呼べる仲間と共にいた。

 それに比べれば今の彼女。カンナ・ラカンムーラは退魔の剣も在りし日の仲間たちもいない彼女は実に滑稽に見えたのだろう。

 しかし、彼女は自身の孫との旅立ちの際にこう言った.


「悪いが!腕はなまっちゃいないよ!」


 その言葉は真実であった。彼女は剣も仲間も今はいない。しかし、失ってばかりが人生というわけでもない。家族があった。孫やその友達がいた。

 ならば彼女は歩みを止めなかった。

 勝敗は随分とあっさりときまる。腹に食らった一発は肉体を貫通すると共にその筋繊維や肉を雷撃によってズタズタに引き裂かれ、奴の肉体はもうまともに動かせるような状態ではなかった。


「う……うそだ……!こんなあっけなく……!」


 当の本人からしてみればもっと真っ当な勝負が出来ると思っていた。そのために場を整えた。奴をここに誘い出すためにわざわざ村を支配下に置き。さらにそこから奴らを名指しで指名させたのにこんな……。


「────────おい。」


 カンナが化け物にドスの聞いた声色で胸ぐら掴みながら脅しに掛る。


「おまえなんで蘇ってんだよ?」


「けっ、しらねぇよ……」


 カンナはそれだけ聞くとこれ以上は無駄とばかりにそのまま化け物を吐き捨て、とどめを刺そうとその右腕を振り上げる。


「おいおい。孫の遺言くらい聞きたくないのかよ?」


 その一言でカンナの手がピタリと止まる。

 正直化け物『ポドラック』はあやつの遺言など聞いちゃいない。だが、ここでおとなしくも死ねん。どうにか時間を稼いで逆転のチャンスを────────────!!!

 止まっていたカンナの腕はさらに威力をましてポドラックの左胸を貫く。


「てっ!てめえ!自分の孫の……!!!」


 するとカンナはひどく冷めた顔で三撃目の用意をしながら言い放つ。


「悪いがうちのは戦闘能力はまだまだだがなぁ、生き残ることに関してはわしより高いのよ。貴様程度に取られるタマじゃない。」


 そう言って顔面目掛けて最後の一撃が飛んで来る───────


「まだ殺すな!」


 暗闇のほうからの随分と聞きなじみのある声がきこえてくる。


「……いったろうちのは生気汚いってよ。ポドラックさんよ」


 しゃがれ声は明かりの方へと近づきその顔をみせる。片腕こそなくなっており、体中ボロボロではあったが、その姿は間違いなくハザクラであった。


「アニキ!」


 しかし、ハザクラ本人の顔は随分と緊迫したような雰囲気で、横っ腹を抑えながら随分と不自然な機械的な足運びで近づいてくる。


「俺が気絶させた奴らから聞いた!子ども達はどこにいる!」


 突然のことでその場にいる全員がハザクラの言っていることがわからなかった。が、ここまでのなぜか十字に捕まっていた以外に特に出番のなかったレビューサがこの依頼内容のことを思い出す。


「……子どもが被害にあっててそれで依頼がアニキのとこに…………」


「こいつら子どもたちがそいつに捕まってて従ってたんだ!ばあちゃんを殺せれば開放するって…………」


 それを聞いてカンナは一言だけ奴に問う。


「なぜ殺した?」


 その疑問は最初から生きているか?ではなかった。


「うるさくってなぁ。癇癪よ────────!!!」


 奴が言葉を最後まで言い終わる前にカンナは奴の顔面を粉微塵に吹き飛ばす。そしてその魔力に反応してかポドラックの肉体は光とともに爆発し、残ったのは静かにその場で拳を地面に突き立てるカンナの姿だけではあった。


「……生かすわけない。お前らが。」


 幕引きはいつまでも酷く気味の悪いほどに澄んだ残響のみがその場を支配していた。








  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る