第6話 夢想天元①
深く沈み込んでいた意識がぎゅるりと舞い戻る感覚に襲われ、そのまま目を覚ます。
カンナ・ラカンムーラ。意識覚醒。
起き上がり、辺りを見渡す。そこは随分と小奇麗な屋敷の一室のようなホテルの一室のような部屋だった。
(ここは……。)
自身の記憶を呼び起こす。ノイズの入り混じったような状態の脳みそを必死こいて回転させまくると、少しずつではあるが見えてきた。
(最後の記憶は馬車の中で転移術を発動させた所まで……いや待て、なぜ私はあの時魔力を大量に食う転移術なぞ使ったのだ?そもそもここは一体全体どこだと言うのだ。)
部屋の雰囲気からして少なくとも目当ての村の周辺などではなさそうだ。だがその部屋のセッティングからは雑さが見えた。
布団はいいものを使っているのだろうが、どこか洗濯をしばらくしていないことを感じさせる感触と埃っぽさがある。まるで付け焼刃だ。
そんな姑みたいな事を考えながらも近くにあったランタンを起動させて起き上がる。
恐らく唯一ととれるドアを開いた先には、外と中の気温差による突風が吹いたとおもったら、そこには黒い世界が広がっていた。
ランタンで照らし辺りを見渡す。そこは随分と崩れたなにかドーム状の建物の跡地であった。
(ここは……いったい。)
彼女は全く知らないその景色に困惑する。なぜか、そんなもの文字道理気絶していたことを加味しても、余りにも彼女の記憶との乖離が見られたからである。
そんなんでかなり困惑していると、なにか夜風に乗って聞き覚えのある声が耳に届いてくる。
「カンナさん!!」
カンナが声のほうに顔を向けると、そこには十字架に縛り付けられたレビューサのまぬけづらがそこにはあった。
「レビューサちゃん?!なんで?!」
思わず声が出た。あんまりにもあんまりな光景がすぎる。ドームの中でも一際高いところに趣味の悪い十字架に括り付けられているのだ。メシアでもない奴がだ。
向こうはこちらに何かを言っているのがわかる。が。しかし距離と風のせいでその声はカンナの耳に届かない。
カンナは改めて辺りを見渡す。ランタンの心もとない明かりではすぐ近くを照らすのすら危うく、取り敢えずこれからレビューサを助けようにも慣れぬ場所であの高台にいきなり昇勇気は彼女にはなかった。というか幼馴染が捕まってるって言うのに家のバカは何をしているやら。まぁ簡単に死んじまうタマじゃないだろうからあいつは生きとるだろうが。
そんなんで頭をねじっていると、先程まで吹いていた風がやんできた。
「カンナさん!敵います!」
それはレビューサの声。カンナの耳に確かに届く、しかし、それは一手遅かったその声が彼女の耳がキャッチする前に彼女の首元めがけて大口を開けた野獣が飛びかかる。
一瞬。それは人の生物の目にはとらえることのできぬ速度のワンアクション。
「悪いが。ここらでくたばれるんならこんなに長生きしちゃいないよ。」
彼女に襲い掛かった獣。そいつとその周辺に潜んでいた奴らすべてに強烈な光と轟音がとどろいたかと思うと、後に残ったのはぐったりと横たわる獣たちばかりであった。
彼女がいつ獣たちに気づいていたかは知らない。しかし、この時一部始終を見ていたレビューサは思い出す。
(そうだ。レビューサさんにそんなイメージあんまりないから忘れてた。)
レビューサがサクラ経由で知った時、彼女は普通の家事をこなす一般のエルフたちと何ら変わりはなかった。少々魔法の使い方が器用なこと以上に特筆すべき点はなかった。
だが、彼女はそうした家事を覚え始めてのはここ100年ほどである。では、そこに至るまでの200年間は一体なにをしてきた。
(200年間のほとんどを冒険者として数多の魔物や悪党と戦ってきた……。)
彼女の200年に及ぶ膨大な戦闘経験の数々。それは彼女の真の強さであった。
カンナは軽くフィンガースナップで囚われているレビューサの鎖を破壊し、そのままぐったりとしてる獣の方へと近づく。どうやら殺してはいなかったらしく、ボロボロではあるが、どうやら殺してこそはいなかったらしい。
「おいワン公。あたしゃ殺さんようにしたはずだぞ?死んだふりはやめな」
ぐったりとした獣はカンナの方を向くと、おびえたような目つきでカンナの方を見つめてくる。畜生の気持ちなどカンナのしった事ではないが、その瞳はこちらの方を見てはいなかった。
「貴殿。何に怯えている?」
すると上のほうからこちらに戻ってきたレビューサが慌てた様子でカンナの下に駆け寄ってきて、息を切らせながら「アニキが!アニキが!」と言ってくる。
カンナが獣のほうからレビューサの方に顔を向けようと振り返った時、彼女の背後に異様な気配を感じ取る。
それはあのとき昼間に馬車の荷台から感じたのもと同じであった。その瞬間にレビューサに向かって何かが殺意とともに接近し喉元に刃突き立てる。
「レビューサちゃん!!」
カンナは咄嗟にレビューサを庇うように引き寄せ、そのまま転がるように退避する。その腕にはなにか爪のようなもので切り裂かれたように肌から血が滲みだす。
「外れたかよ……」
その言葉の先にいたのは、巨大な魔獣であった。狼のような姿をしているが、二本足で立って歩き、その体には体毛ははえておらず、焼けただれたような肌に腐臭のような醜い匂いが辺りに広がっていく。そして何よりその首には昼間に自分たちを案内してくれた御者の青年の生首が両眼玉に糸を通すようにされかけられていた。
「貴様。何者だ?わしは理解が追い付いとらんぞ」
カンナのその言葉に化け物は少しばかりイラついたようなしぐさを見せると、まぁいいかという顔に戻る。
「忘れられたとは悲しいねぇ。おめぇに殺された仲だってのによぉ。残虐のポドラックだよ!わかんねぇかなぁ!」
その怪物を自身をポドラックと名乗る。その名にレビューサは全く皆目検討も付いておらず、300年の知恵をもつカンナも自身の知見をフルマックスで振り切ると、はっとしたような顔になる。
「100年前にわたしらパーティーが倒したやつだよ!なんで生きてる!」
そいつは100年前。カンナが現役バリバリだったころに相手した魔王軍遊撃部隊隊長の男であったことをカンナは思い出せたことに若干驚きながらそう答えた。
「しかしあん時ワシがお前のどってぱらに穴をあけたのを覚えとるぞ。何故に生きとる。まさか今の今まで生き延びとったんか?」
「さぁねぇ。こっちも気づいたら生き返っとったんだ。まぁやることは一つだろうが」
奴の目的はたった一つ。カンナへのリベンジマッチ。奴は100年前も血気盛んな奴だったからな大方の予想はつく。
「ほいじゃ貴様。わしはあっとらんが、あそこの村の連中とはどういう関係じゃ?」
するとやつはべらべらと自分がどうしてあの村の連中と関わりがあるかをはなしてきた。要約すればカンナと戦うのにある程度の自分の為の拠点と戦力の確保が目的だった。
「そしたらここの連中自分らが犬の亜人種ってこと隠して暮らしとった奴らだからよぉ丁度いいったらあやしねぇ!」
レビューサは思い出す。ここでサクラの感知系の魔道具がすべて音がすぐになってしまってまともに使えなかったことに。
(そうか、あれは故障なんかじゃなかったんだ……!)
すると彼女は何かを思い出したかのようにカンナの肩に掴みかかると、「アニキが!」とおびえたような声でカンナはいう。
「アニキが!あいつに殺されちゃったんす……!」
その時カンナの思考は一次完全に止まる。そして再起動をかけ、ポドラックの方をぎろりと見ながら一言だけ言う。
「貴様。そいつは事実でいいんだな?」
「それがどうした。片腕引きちぎって殺してやったよあんな雑魚。」
「さぁ!ヤロうや!勇者カン────────────!!!!!」
その瞬間奴の肉体に天空から雷撃が降り注ぎ、いまだ10万ボルトは抜けぬ体にカンナの得意とする雷撃を纏わせたパンチが100年ぶりにそのどてっぱらをぶち抜く。
「仇討ちだ!ワシの孫の!」
カンナ・ラカンムーラ。100前に魔王を打ち取った勇者パーティーにおいて『勇者』の称号と退魔の剣と雷の魔法を得意とした冒険者。いまその体には全盛期のカンを取り戻す。
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