ある中学校での出来事

ドライアイスクリーム

第1話

中学校のチャイムで目が覚める。毎日のように鳴り響く耳障りな音だ。


4時間目の授業が終わり、クラスメイトたちは騒々しく給食の準備を始めている。


そんな様子を、少女は椅子に座り目をこすりながら見ていた。


伸び放題の白髪に線の細い体。表情は長い前髪で隠れておりうかがい知れない。


ただし、少女はこの状況とこの空間、そして中学校そのものに嫌悪感を抱いていることは確かだった。


現に、少女は苛立たしさを隠せず机の肢を何度も蹴り続けている。


「あの・・・」


少女の背後から声がした。


振り返ると、そこにはクラスメイトの姿があった。


名前なんて知らない。覚える理由がどこにもないからだ。


「確か今週ってあなた給食当番だったよね?だから早く準備してほしいんだけど・・・」


給食当番。


その言葉を聞き、眉根を寄せた。


給食衣をまとい、クラスメイトのために配膳をする対価のない労働。


そして何よりも、給食という残飯に等しいゲテモノを、教室という小汚い空間で他人も同然の人間と共に食らう行為に対し、不快感を覚えられずにはいられなかった。


コンビニやスーパーで売られている安価な飯を1人で食った方がはるかにマシだった。


「えっと・・・ねえ?聞いてる?」


一切喋らずほとんど動かない少女の顔をクラスメイトが覗き込んできた。


使い捨てライターがあれば、こいつの舌を燃やしてやるのに。


過去に一度、ライターを使い他のクラスメイトの髪の毛を焼いたことがある。


こいつと同じく、不快感を煽るような言動を繰り返した奴に対する報復だった。


だが、その後は教師にライターを取り上げられてしまい、現在は登校するたびに持ち物検査を受ける羽目になった。


そのせいで、今はライターを所持できない。カバンの奥底にガラスの欠片を忍ばせてるが、これを扱う場合は自分の手に裂傷を負う可能性がある。


今は怪我を負いたくない。今は取り出すことができない。


「あの・・・早くしないと給食が・・・」


耳障りだ。もう喋るな。


少女はそう思うと立ち上がり、カバンに詰めていた傷だらけの給食袋をクラスメイトに投げ渡した。


それと同時に、登校前に自販機で購入しておいたエナジードリンクを1本手渡す。


「代わりに給食当番頑張ってね」


少女は怒りを抑えて淡々とそう言い、カバンを片手に教室から足早に去っていった。


廊下を走り、階段を駆け下りていく。


そして、げた箱から自分の靴を取り出してはいた後、開きっぱなしの玄関扉を抜ける。


少女の通う中学校では、不用心にも扉が開かれたままなのだ。


開閉する手間を省くためなのかもしれないが、少女にとってそんなことはどうでもよかった。


それから、カバンを肩にかけて外の鉄扉をよじ登る。


扉の向こう側に立った後、足早に学校から離れていった。


少女がこうした行動を取るのは初めてのことじゃない。


今までこういった行動を取っており、初めのうちは咎めていた教師やクラスメイトも、現在は完全に諦めて野放しにしている。


給食当番の際も同じような行動を取っていた。


給食の時間になると少女は学校から出ていく。そして、それは公然の秘密となっている。


恥ずべきことなのかもしれないが、自分を止める人物がいないことは中学校を嫌う少女にとって好都合な話だった。


さて、これからどこに遊びに行こうか。


少女は心を躍らせながらそう考えて、中学校から離れていった。

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ある中学校での出来事 ドライアイスクリーム @walcandy

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