バグロイド
うきわ
第1話『感情を持つことはロボットの故障なのでしょうか。 これはロボット心理学と人間の《心》のルールが決まる、少し前の物語』
俺の脳に埋め込まれた〈HDMI〉は今日の 朝を知らせるために〈電子スクリーン〉を視界のなかに映し出した。
◯ 仮想画面〈電子スクリーン〉
人類は銀河法第六条により、10才になれば〈銀河民共通手術〉を受け、額の裏にある大脳皮質に〈集積ニューロンチップ〉を埋め込まれる。
脳に埋め込まれたチップは血管を通る赤血球の運動をエネルギー源としており、半永久的で絶対に外れることはない。
とはいえ、人類の技術革新のアップデートに耐えうるため、チップを補完する外部データを得る。通称︰〈サーフィス〉と名付けられた外部機器が左耳の下に露出する形で着けられた。
このサーフィスは、持ち主の職業、趣味、趣向などにより様々な専門的な性能を有するものに換装することが可能である。
チップは脳神経を使って、視覚、聴覚、嗅覚、触覚などの感覚を再現し、今や日常生活からは切っても切れない存在となっている。
枕元で浮かぶ電子スクリーンは今日の天気を淡々かつ一方的に省略して語る。
天気予報は、曇りのち雨、その後また曇りらしい。
灰色の壁に備え付けられた〈電子窓〉は、白いカーテンの画面をやめて、外の景色へと切り替える。そこにあるはずの窓の代わりに
外には無限に続く美しい銀河系が見える。
俺たちの街は月に建った透明なドームの中にある。
その中には酸素、窒素、アルゴン、水素、ヘリウム、メタン、クリプトン、キセノン。その他微細な元素が元気に熱運動をしている。中からはドームの外にあるナトリウム・カリウム越しに美しい宇宙が楽しめる。
ドームの外では終わりの見えない藍色と不安定に煌めく衛星が目立つ。遠くにはとても小さな地球が見える。月面の半分は家からこの地球を拝むことはできない。
ここは首都にある高級住宅地だから地球が見えるが、物価がバカ高い。あと税金も高い。
加えて家の周りでは<飛行系ビル>と<パトロールドローン>が無数に飛行している。
〈飛行系ビル〉は月が銀河最大の巨大ターミナルに成長した好景気の時代にお金が有り余って仕方がなかった企業が『飛んで移動できるビルあったら便利じゃね?』と思い、飛んで移動できるビルを開発した。
しかし、ビルが飛んで移動したら不便という事実に気づいた時から、〈飛行系ビル〉は一か所でただ浮かぶようになった。
俺のバカ高ぇ税金と会社の利益がこんなビルに使われていると思うと、マザーコンピューターをハッキングして宇宙の彼方まで大移動させてやりたくなる。が、本来毒気を他人にまき散らすのは好きじゃないので、口にはしない。
〈パトロールドローン〉は首都に5000体以上配備されているロボットだ。365日休みなく俺の家の周りをパトロールしてくれるお陰で、あの耳障りなプロペラの回転音がたまにイラつく。
ともあれ、100㎝×110㎝の画面は街中に灯る青緑のネオンで満たされていた。青緑のネオンは煩く光り輝いていて、時にはうざったくなる時もある。これが俺の生きる52世紀の姿である。
俺は目を擦りながら寝返り、電子スクリーン〈仮想画面〉をタップした。
電子スクリーン〈仮想画面〉は25世紀に存在したパーソナル携帯端末の後継機。それは人間の月大移動と初期シンギャラリティの到達により変化し、今や人間の前頭視野から直接データが流れ込み、意識の中でタップする。人間意識のメタバースとなった。
《6/20『バグロイド1』:警備ロボット⇒*アクチュエータのエラー
HTTPs//www.hoshinoatranntisu.
6/20『バグロイド2』:工事ロボット⇒…》
注釈:*アクチュエータ‥電機や気圧などのエネルギーを変換し、機器を正確に動かす駆動装置。
俺はある程度業務確認を終えると、電子スクリーンを邪魔にならないところに飛ばした。そして、俺はベッドの下からプラスチックボックスを取り出した。そして、その中からしわだらけの黒のヒートテックを引っ張り出し、袖を通した。
俺はアンティークショップで買ったお気に入りの布団をベッドの端に丸め、隙間からわずかに見える冷たいステンレスの上を裸足で歩いた。その先にあるやっとの思いで座った白い丸椅子は、俺の労働意欲をダメにする。
椅子に座ったと同時に壁際の青緑のランプが点灯し、天井に張り巡らされた配管やコードと繋がったドローン達〈無人機〉は、鉄で作られた立方体から生える2本のアームと頭上のプロペラを回しながら起き上がった。
ティーメーカーで作られた紅茶を運ぶために作られたドローン①
キッチンのウォールキャビネットからはみ出る箱にぶつかり、そのままティーメーカー隣の空虚を一生懸命掴み続けている。
なんでこうロボットというものは調味料入りの段ボールに少しぶつかったくらいで紅茶の位置すら分からなくなるのか。それもこれもコイツが旧型だからなのだが、紅茶を運ぶためだけに数十万を使って新型を買い直すほど俺は自堕落ではない。
俺は仕方なく紅茶の目の前にドローンを掴んで移動させた。
朝食を終えた後はキッチンに移動し手探りでシンクにある食器の山から歯ブラシを探した。するとさっきまで窓の隅を拭いていたはずのドローン②が細いアームを上手く使って歯ブラシをシンクの中から見つけ出した。
「でかした!お前もたまには役に立つんだな!」
俺は歯ブラシを掴んだままカウンターに止まったドローンの四角い頭を無造作に撫でる。ドローンはその調子で無機質にイチゴ味の歯磨き粉も見つけ出してキャップも外した。
「歯磨き粉も出してくれるのか。それは助かる。」
ドローンは歯ブラシを左アームに持ち変えた。
そして新品の歯磨き粉に圧をかけ、中身の全てが一つも残らないように歯ブラシの上に押し出した。
バグロイド うきわ @kawashitaayane0130
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