玉手箱の煙
@2321umoyukaku_2319
第1話
父が死んだ翌年、母が亡くなり、浦島太郎は独りぼっちになった。
だが、孤独を感じている暇はなかった。大家が貸家から出ていくよう言ってきたためである。太郎は住む家を探さなければならなくなった。知り合いの家を当たってみたが、何処も狭く、家族も大勢いて、彼を泊める場所はなかった。
どうしたものだろう……考えていたら、腹が空いてきた。釣竿を持って海へ出かける。釣った魚を食べようというのである。だが、結果は坊主だった。ついてないときはとことんついていないものである。釣竿と空の魚籠という浦島太郎定番のスタイルで浜辺をトボトボ歩いていると、ウミガメを虐める子供たちと遭遇した。
「これこれ、止めなさい」
昔の子供は今の子供と違い、大人の言うことを多少は素直に聞いたので、子供らは逃げ去った。助けてもらったウミガメは浦島太郎に「お礼に竜宮城へ連れて行きますので、私の背に乗って下さい」と言った。太郎が亀の背に乗ると、あら不思議! いつのまにか彼は竜宮城へ到着していたのである。
そこで乙姫様と過ごした蜜月の日々は読者が好き勝手に想像するとして、ラストへ進む。
浦島太郎は陸地が恋しくなった。故郷へ帰りたくなった彼は乙姫様に「地上へ戻ろうと思う」と告げる。
それを聞いた乙姫様の嘆きようと言ったら、筆舌に尽くしがたい。
しかし悲しみに沈みながらも彼女は気丈に笑顔を浮かべて浦島太郎に玉手箱を見せ「絶対に開けないで下さい」と告げるのだった。
そのとき浦島太郎の目は玉手箱をとらえていなかった。別離の辛さを必死で隠そうとする哀れな乙姫様から目を逸らすことが出来なかったのである。
彼は、乙姫様を苦しめた自分の発言を後悔した。そして前言を撤回する。
「地上には帰らない。お前とここに、ずっといる」
乙姫様の目から喜びの涙が溢れ出た。手から玉手箱が滑り落ちる。
蓋の開いた玉手箱から煙が立ち上った。その煙は、愛し合う恋人たちの姿を隠す。
玉手箱の煙 @2321umoyukaku_2319
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