宇宙で一番幸せ者
Nagi
0 はじまり
宇宙人は存在する。
そう政府から公式に発表されたのは、僕が生まれた年のことだった。
宇宙人と言う表現が一番わかりやすいからみんなそう呼んでいる。正しくは宇宙人と言うよりは地球外生命体、もっと正確に言うならばこの地球以外にも、なんらかの生物が存在している。と言う認識の方が正しいそうだ。そしてそれらは人や動物のように思考し、意思疎通ができるとか、できないとか—らしい。
曖昧な言い方だが、そう言うより他はない。
—実は宇宙人というその存在を、誰も見たことが無いのだから。
宇宙人は存在するということだけが知らされて、肝心の宇宙人の姿はついぞ明かされなかった。ごく一部の人たちだけが知っているのか、あるいは本当に誰も知らないのかもしれない。
僕が生まれた年、世界中、話題はそれで持ちきりだったらしい。
ニュースは連日宇宙人に関連するものを報道した。
地球以外にも生物がいるということはどういうことなのか、知能は、武力は、文明はいかほどか。またはそれらは本当に存在しているのか、何者か、いや、それよりもっと大きな『何か』のでっち上げなのか。
しまいには、我々の生活にすでに宇宙人は忍び込んでいる、いや我々が宇宙人である、いいやこれは思考実験で、世界規模で我々の行動は監視されている。
—誰に?
宇宙人に。
そして我々人類も、視点を変えれば宇宙人である。
というところで、この話は落ち着いた。
政府もそれっきり宇宙人については語らなかったし、見たことが無いものについて語ることは疲れるから、半ば強引に、悟ったようで誰でも考えたことのある答えで今は決着している。
僕が生まれた年、空を見上げる人が増えたらしい。
UFOを探す人、はるか先の空にいるであろう何かに想いを馳せる人、見たことのない宇宙人の人権を保護しようとする団体。
しかし僕が思うに、空を見る人がいきなり急増したわけではなくて、空が好きでふとした時に見上げている人は一定数居たのだ。
空を見るために空を見る人がいた。そこに、宇宙人を見つけるために空を見る人が来て、そういう奴らは空だけではなくて隣の人もちらっと見るもんだから、隣の人も自分と同じように空を見ていると、ああ、この人も宇宙人を探してる。と言った具合に。
空を見る人が増えたという統計は、どちらにも当てはまらない第三者ではなく、宇宙人を見つけるために空を見た人が、ついでにとった統計に他ならない。
—僕がその被害者であったように。
僕が生まれた年、嘘をつく人が少しだけ増えた。
宇宙人を見た。私は宇宙人とコンタクトが取れる。私は宇宙人と人間のハーフです。近々宇宙戦争が起こるー。
エンタメ程度の嘘はまだ可愛いものだが、実際詐欺で捕まった人もいたらしい。宇宙人なりすまし詐欺や、宇宙人ビジネスで。
ああ、悲しきかな、人間。
そんな悲哀を込めて、2005年6月30日、僕は生まれた。そして、その年はささやかに、『宇宙元年』と呼ばれている。
人が最も宇宙について、宇宙人について考え、空に興味を持ち、小学生のなりたい職業ランキング一位が宇宙飛行士になった年。
この物語はそこから始めよう。そして僕の人生、未だ見ぬ、君へ捧げよう。
これは、多くの人の祝福を受けて生まれた僕の話。
しかし一つだけ揺るがないものがあるとするならば。
宇宙人は、存在する。
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