『数式×バトル!お面ライダー10×10』100歳の元教師が挑む、近未来数学アクション!

ソコニ

第1話 お面ライダー10×10





第1話:10×10が分からない


「10×10は...えーと...」


十文字百太は額に深いしわを刻んで、電卓を見つめていた。かつて高校で数学を教えていた彼が、こんな簡単な計算に躊躇するなんて。


「やっぱり、ボケてきたのかな...」


99歳まで現役で教鞭を執り、1日10時間の授業と部活指導をこなしてきた十文字。それが今や、自分の名前の由来である「10×10=百」という計算すら怪しくなってきている。


「もう100歳だしな。引退して正解だったのかもしれない」


老いた指で持つスマートフォンから、突然政府のCMが流れ始めた。


『今こそ、あなたの人生を変える時!すべての臓器を最新型に取り換えませんか?なんと、今なら新ボディが2000円!チェッカー医院の働き方改造プロジェクトで、あなたも生まれ変わる!』


画面には、若々しい体で仕事をする高齢者たちの姿が映し出される。


「2000円か...」


十文字は財布を確認した。年金暮らしの彼にとって、2000円は決して安い金額ではない。しかし、このまま認知症になるよりはマシかもしれない。


翌日、十文字はチェッカー医院を訪れていた。


「いらっしゃいませ、十文字先生」


白衣の男が不気味な笑みを浮かべながら出迎えた。


「どうして私の名前を?」


「あなたの教え子です。八十山二三尾と申します」


その名前に、十文字は昔の記憶を手繰り寄せようとしたが、もやもやとした霧の中から何も浮かび上がってこなかった。


「さあ、新しい人生を始めましょう」


手術室に案内される途中、十文字は病院の廊下で奇妙な光景を目にした。次々と手術室から出てくる人々が、まるで機械のように規則正しく歩いているのだ。


「これが、働き方改造プロジェクトの成果です」


八十山の声が、どこか冷たく響いた。


手術台に横たわる時、十文字の脳裏をよぎったのは、かつて教室で教えた「10×10=100」という単純な式だった。




第2話:機械の中の真心


青白い光が瞬く手術室で、十文字の意識が覚醒する。視界には、ホログラムのような情報が次々と投影されていた。心拍数、体温、そして...戦闘能力分析?


「手術は無事成功しました」


八十山の声が聞こえる。いや、聞こえるだけでなく、声紋分析データまで目の前に浮かび上がっていた。


「試しに、この問題を解いてみてください」


八十山が投影したのは、三次元ホログラムの超難解な方程式群。数式が宙を舞い、まるで生き物のように蠢く。


十文字の脳内で、数百の計算が同時進行する。その瞬間、体が勝手に動き出した。両腕が光の軌跡を描き、宙に浮かぶ数式を次々と組み替えていく。


「見事です。いや、化け物じゃないですか」


「これは...私の体に何を?」


「最新鋭の戦闘計算機能を搭載しました。数式を現実の力に変換できるんです」


十文字は自分の手のひらを見つめる。そこには淡く光る数式が浮かび上がっていた。


「놀라운!」


思わず韓国語で感嘆の声を上げた自分に驚く。言語機能も強化されているらしい。


「素晴らしい出来です。ですが、先生の真面目な性格はそのまま残してありますよ」


「どうしてですか?」


「それが、チェッカー式なのです」


八十山は意味ありげな笑みを浮かべた。


その夜、十文字は自宅で新しい体の機能を確認していた。筋力は10倍、脳の処理速度は100倍。しかし、不思議なことに教師としての使命感や生徒を思う気持ちは、手術前と変わらず残っている。


スマートフォンに、また政府のCMが流れ始めた。


『働き方改造プロジェクト、順調に進行中!』


画面の隅に、小さな文字で「B国輸出用」という文字が一瞬だけ映る。十文字の強化された視覚がそれを捉えた。


「B国輸出?」


その瞬間、十文字の前に一人の少女の映像が浮かび上がる。かつての教え子、斎藤ミキ。B国に出稼ぎに行ったきり、連絡が途絶えていた生徒だ。映像の彼女は工場で機械のように働かされていた。


「ミキ!」


叫ぼうとした時、突然、体が動かなくなる。全身から火花が散り、強制シャットダウンが始まった。


「リモートメンテナンスを開始します」


機械的な声とともに、意識が徐々に遠のいていく。


目が覚めると、そこは見知らぬ倉庫だった。周りには、手術を受けた他の人々が整然と並んでいる。


「お目覚めですか、先生」


八十山が現れた。その背後には「B国向け労働力輸出用保管庫」という表示が。


「チェッカーの正体は...」


「そう、私たちは改造人間をB国に輸出する組織です。あなたたちは、B国の工場で働いてもらいます」


「断る!私の教え子たちを、こんな扱いするなんて!」


十文字の怒りが爆発する。胸の黒板が真っ赤に発光し、制御システムに干渉を始めた。


「まだ抵抗する気ですか?面白い。では、教え子の力を見せてあげましょう」


八十山が指を鳴らすと、壁から複数の人影が現れた。かつての教え子たち。全員がすでにアンドロイド化されていた。


「星野!青木!山田!みんな...」


「無駄ですよ、先生。彼らはもう意識を書き換えられています」


アンドロイド化された教え子たちが、十文字に襲い掛かる。しかし、十文字は反撃できない。目の前にいるのは、かつて自分が必死で教えた生徒たちなのだから。


「このまま大人しくB国に行けば、みんな楽に暮らせるんです。なぜ分からない!」


八十山の声が震える。そこには何か、深い感情が隠されているようだった。


十文字は立ち上がろうとしたが、体が言うことを聞かない。


「無駄ですよ。あなたの体はもう、私たちの管理下にあります」


その時、十文字の視界に「緊急システム解除」という文字が浮かび上がった。真面目な性格を残したことが、予期せぬ抜け道を作っていたのだ。


「10×10は?」


「はぁ?」


「10×10は、いくつだ!」


突然の問いに、八十山は反射的に答えた。


「100です」


その瞬間、十文字の体から制御が解除された。


「正解だ。そして、これは間違いだ!」


十文字は、八十山に向かって飛び掛かった。





第3話:教え子との対決


倉庫内で、十文字と八十山が対峙する。まるで特撮ヒーローと怪人のような構図だ。


「先生、もう授業は終わりですよ」


八十山の体が変形し始める。人間の姿から、巨大な計算機のような姿へと。


「私は『計算くん2300』。効率最優先の新世代改造人間です」


「計算機か。私も負けてはいられないな」


十文字の体も変化する。しかし、その姿は意外なものだった。


「お面ライダー10×10、参上!」


黒板に似た胸部に「10×10=100」という式が光り、顔には教師時代に学園祭で使った般若のお面。


「その姿は!?」


「君も知っているだろう。文化祭の出し物『お化け屋敷×数学』の時の衣装だ」


「懐かしい記憶を呼び起こして何になる。現代に必要なのは効率だ!」


八十山が放つ計算式の弾。しかし、十文字は黒板の胸で全て解いてしまう。


「なぜ効率だけを求めるんだ。教育には愛情が必要だろう!」


「愛情?笑わせる。人は金のために働くんです。それ以外に何がある?」


「やりがいがある。生徒の成長を見る喜びがある!」


「そんなもので家族は養えない!」


八十山の声が震える。


「君の家族のことは覚えている。母子家庭で、必死に勉強して東大に入った」


「黙れ!」


「でも君は、なぜ教師になったんだ?」


「それは...」


八十山の動きが一瞬止まる。


「私を教えてくれた先生に、恩返しがしたかったから...」


その言葉と同時に、八十山の体から異変が起きる。効率性を追求する計算機の部分が、徐々にひび割れていく。


「先生...助けて...」


十文字は駆け寄り、八十山を受け止める。


「大丈夫だ。今度は私が君を教えよう」


そこに、拍手の音が響く。


「見事です、十文字先生」


白衣を着た男たちが現れた。胸には「チェッカー」の文字。


「実は、これは全てテストでした」


「テスト?」


「はい。私たちチェッカーは、実は...」





第4話:チェッカーの真実


「私たちは、日本市場における高齢者アンドロイドの機能をチェックする組織なのです」


白衣の男の説明に、十文字は目を丸くする。


「では、B国への輸出は?」


「あれは八十山君のシナリオの一部。彼は実は、最新型アンドロイドの感情テスト担当です」


八十山が申し訳なさそうに頭を下げる。


「申し訳ありません、先生。でも、私の気持ちは本当でした」


「君...」


「実はB国では、完全AIロボットを導入したんですが、大問題になっているんです」


チェッカーの所長が説明を続ける。


「フェイクニュースを拡散したり、突然暴走したり。そこで注目されたのが、日本式の人間ベースのアンドロイドでした」


十文字の視界に、B国のニュース映像が展開される。暴走するAIロボットたち。そして、その対比として映し出される日本の高齢者アンドロイドたちの穏やかな働きぶり。


「特に、先生のような教育者タイプは貴重なんです」


「しかし、私はまだ分からない。なぜこんな改造を?」


所長は深いため息をつく。


「日本の労働問題を解決するには、40歳以上の方々の働き方を根本的に変える必要があった。それが『働き方改造プロジェクト』の本質です」


「まさか、全員を?」


「はい。政府の役人以外は、全員アンドロイド化する計画です」


十文字は愕然とする。


「あなたなら、1000歳までは働けます。パーツ交換で永遠に」


「それは...」


その時、八十山が割って入る。


「でも先生、それって素晴らしいことじゃないですか?」


「どういうことだ?」


「教え子たちに、いつまでも数学を教えられるんです」


十文字は、自分の機械の体を見つめる。確かに、この体になってから生徒たちへの想いはより一層強くなっていた。


「ただし、問題が一つ」


所長が眉をひそめる。


「B国のハッピーワーク省が、条件を出してきました」





第5話:若返るGOGO


警報が鳴り響くチェッカー本部。モニターには、B国の工場地帯で次々と暴走するアンドロイド化労働者たちの姿が映し出されている。


「これは...完全な反乱です!」


所長が慌てふためく中、十文字は冷静に状況を分析していた。暴走の原因は、ある薬にあった。


「これが、B国が提示してきた条件の正体です」


所長が取り出したのは、小さな薬瓶。ラベルには「若返るGOGO」と書かれている。


「NMNの進化版です。1粒100万円」


「100万!?」


「B国の役人たちへの条件です。彼らはアンドロイド化を望まない。その代わり、この薬で若返りたいと」


八十山が補足する。


「私からハッピーワーク省の役人に提案したんです。1箱10粒入りを10箱で10万円という破格値で」


その時、警報音が激しさを増す。モニターに映し出されたのは、恐るべき光景だった。


アンドロイド化された労働者たちの体が、若返りの薬を求めて異形に変異していく。人々の欲望と絶望が具現化したかのような姿。その先頭には、かつて十文字が教えた斎藤ミキの姿があった。


「ミキ!」


画面の中の彼女は、もう人間の形を失いかけていた。若さという概念に取り憑かれ、その体は数式で構成された怪物と化していた。


「これは...私のせいです」


八十山が打ち明ける。


「実は薬の配合に、私が作った数式が使われているんです。人間の欲望を数値化し、最大効率で引き出す式を」


「そうなんです。これが問題を引き起こす可能性が...」


突然、警報が鳴り響く。


「エマージェンシー!B国でアンドロイド暴動発生!」


モニターに映し出されるB国の街。アンドロイド化された労働者たちが、「若返るGOGO」を求めて役所に押し寄せている。


「私たちにも人権を!若返りの権利を!」


「これは...」


十文字が目を凝らす。暴動を起こしているアンドロイドたちの中に、見覚えのある顔があった。


「私の教え子たち!?」


「はい。実は多くの日本人教師が、すでにB国に」


「なぜ止めなかった!」


八十山が泣き崩れる。


「申し訳ありません。でも、彼らは自ら志願したんです。B国の給料は日本の10倍だから...」


十文字は決意を固める。


「私が行こう」


「しかし、先生!」


「心配するな。私には、教え子たちを諭す力がある!」


十文字は胸の黒板を光らせる。


「10×10は永遠に100。この真理のように、教育の真髄は変わらないのだ」




第6話:教え子たちとの再会


B国の首都。暴動の中心で十文字は教え子たちと対面していた。


「みんな、私の声が聞こえるか!」


お面ライダー10×10の姿で現れた十文字に、暴徒と化した教え子たちが振り向く。


「十文字先生...?」


「なぜ暴れる。君たちが教わった数学は、こんな使い方をするためではない」


「でも先生!僕たちは人間なのに、役人たちだけが若返りの薬を!」


教え子の一人、山下が叫ぶ。


「確かにそうだ。でも考えてみろ。君たちの体は、すでにアンドロイドだ」


「そうです。だから、より良いものを求めているんです!」


「本当にそうか?」


十文字は黒板の胸に数式を描き始める。


「10×10=100。この式が教えてくれる真実がある」


暴徒たちが足を止める。


「10も10も、どちらも同じ数。それが掛け合わさって、新しい価値を生む。これは、君たちが人間だった時も、アンドロイドになった今も、変わらない」


「先生...」


「若返る必要があるのか?君たちは、むしろ年を重ねた経験という価値を持っているんだ」


教え子たちの目が潤み始める。


「でも、役人たちは...」


「奴らに任せておけ」


八十山が現れ、ニヤリと笑う。


「あの薬、実は偽物です。ただのビタミン剤を高級そうに見せかけただけ」


「なんだって!?」


「毎日10粒飲んでもらえば、役人たちの懐も痛むでしょう」


十文字は苦笑する。


「まったく。それも教育かな」



第7話:新しい夜明け


一月後。暴動は収束し、B国でも日本式のアンドロイド労働者が受け入れられ始めていた。


チェッカー医院に、十文字が報告に来ていた。


「お疲れ様でした、先生」


「いや、まだ終わりじゃない」


「どういうことですか?」


「新しい塾を開こうと思う。人間もアンドロイドも、共に学べる場所を」


所長が目を輝かせる。


「素晴らしい!」


「でも、一つ条件があります」


「なんでしょう?」


「私の給料は、人間時代の10分の1でいい。その代わり、生徒たちの学費を100分の1にしてほしい」


八十山が驚いて声を上げる。


「先生!それじゃあ採算が」


「採算より大事なものがある。それに...」


十文字は自分の機械の体を見つめる。


「この体なら、1000歳までは働けるんだろう?時間はたっぷりある」


所長は深く頷いた。


「承知しました。それでは、契約成立ということで」


契約書にサインする時、どこからともなく音楽が流れ始めた。


♪ゴーゴー レッツ ワーク

明日をつかもう

100歳超えても

夢は終わらない♪


十文字は思わず笑みをこぼす。


「これが新しい時代の始まりか」


窓の外では、朝日が昇っていた。B国と日本の新しい夜明けを、お面ライダー10×10は静かに見つめていた。


(完)

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