第23話 菖川高校演劇部へようこそ!(前編)~平林芽夢~
皆さん初めまして。私は平林芽夢、ここ菖川高校で演劇部の部長をしています。今日からは1年生の仮入部期間、先週やった新入生歓迎公演に次ぐ春の大仕事!…何ですけど、『部長』っていう立場の私からすれば正直こっちの方が大事です。うちの演劇部は都大会の常連で、一昨年は関東大会にも出場出来ました。なので、都立とは言えこの辺だとそこそこ名がある演劇部、何だけどなあ…
「あ、芽夢ちゃん。今日から仮入部期間だね」
「酒井先生!お疲れ様です、今年は今のところどうですかね?」
顧問の酒井智子先生が来たので、一応状況を聞いてみることにしました。春公演の来場者数は大体新入生にどれくらい関心を持ってもらえてるかのバロメーターになるんですけど、今年に関しては区のフェスに出ることになって上演がいつもより前倒しになった上に会場が校内じゃないからこっちとしては宣伝効果的には正直微妙。いつもはこの期間に会議室を借りてどーんと校内で公演して、次の活動日にお菓子とか片手に交流会をして――って流れなんですけど。
「うーん、こないだ来てくれたのは、1年だと2人か3人かな?でも、そのうち2人はもう来た時点で入る気満々って感じだったよ」
あー、てことは説明会の日に来てくれた2人だけか…校内公演なら宣伝にも多少時間を使えただろうけど、今回はより「質」を求めてたしなぁ。絶対部員数確保しなきゃダメなのに――まあでも、今更あーだこうだいってもしょうがない。
「…そうですか。ありがとうございます!宣伝、頑張ります!」
「一応一般なんだし、他の人にも任せてもいいんじゃない?抱え込んじゃだめだよ」
「ありがとうございます!」
さあ、最後のベルが鳴っていよいよ部活の時間。あ、そうだ。何でこんなに部員数で悩んでるかっていうと――
「あ、先輩お疲れ様です!」
「お疲れ茜。今日からあんたもその『先輩』になるんだぞ」
「そうですよね、でもなんて言うか…もちろん楽しみですし、そういう不安もありますけど、あの――」
「その心配ならナッシング!ちゃんと連れてきてあげるから」
頼もし気な顔をして、とりあえず彼女を部室に行かせることにしました。彼女の名前は和田茜。この演劇部唯一の2年生。まあ、これで朝何であんなに不安そうにしていた理由は分かってもらえると思います。
私達は去年、新入生の獲得で相当苦労しました。最初は他にも何人かいたんですけど、雰囲気に馴染めなかったようで、残ってくれたのは茜1人だけでした。特に去年までは広岡先生っていうちょっと厳しめの先生がいて、練習もきつめだったのは事実です。と言っても、今どきに、それも演劇でスポ根みたいな先生がいたわけでは無いです。淡々としてるというか、結構事細かに演技の意図を聞く先生なのでワンカットが全然終わらないんです。しかも妥協しない人なので、普段からその先生がいるときは割とそんな感じでした。
とは言え、広岡先生に細かく教わったからこそ私たちが上手くなれたのは事実です。このまま部員が減り続けて、部活がなくなるなんて絶対に嫌です。なので、特に今年は1人でも多く入部してほしい。茜が苦労しないためにも、私は部長として一層その思いが強いです。
「頑張ろう、芽夢。大丈夫、きっと大丈夫…」
頬を強くたたき、部室のドアを開けた。
「遅いよー芽夢。もう雑巾がけ始めてるよ」
「そうそう、『ピカピカのお部屋で新入生を気持ちよく迎えよう!』って言ってたのは芽夢ちゃんでしょ」
早速副部長2人に怒られちゃいました。この2人は私たちにとってなくてはならない存在です。
「あー、ごめんね朱莉、若菜。ちょっと表で考え事してて」
「1人で抱え込まないでよ。私達だっているんだから」
この子は太田朱莉。主に演出や脚本製作を担当していて、皆のお姉さんのような存在です。一番広岡先生の影響を受けていて、結構細かいところに気が付き、その言語化や相手への気配りも上手い。先生がいる時はみんなとの橋渡し役でした。ただ、若干完璧主義な分脚本ができるのが遅めだったりします。
「最初から不安になってたってしょうがないよ。芽夢ちゃんらしくないよ?」
こっちは篠原若菜。私たちの頼れるエースで、私とは中学の頃からの付き合いです。体は小さいけど、声の出し方は天才的。ステージ一杯に声が響くのは当たり前、声色の変化もお手の物。併せて視線や表情の変化も一瞬で行う。これくらいになるまで、本当に毎日努力を欠かしません。
「あはは…うん、そうだね。よし、今日もいつも通りやろう。雑巾頂戴」
部長が初めから弱気になっちゃダメですよね。あくまで今日も普通の活動日。いつも通りにやりましょう。まずは部室の雑巾がけから。基本的にこれは机の整理も合わせて来た人から順にやっていきます。今日はもう机をやってもらったので、全力で雑巾がけ。終わったらみんなを集めて今日の練習の流れを説明します。
コンコン
「すみませーん、仮入部に来ました!」
扉を開けた先には、未来の原石がなんと3人も!一瞬で歓声が上がりました。
大柄で勝気な女の子と、小柄で元気が顔に書いてある少女。この2人は説明会の日にも来てくれました。そして、初めて会う子も1人。
「こ、こんにちは。僕はまずは見学に…」
「何言ってんの、入るんでしょ?ほら、背筋伸ばす!」
ちょっと自信なさげな男の子。この3人、絶対に逃したくないです。では、早速部屋の中央に来てもらい、全員で声を合わせて――
【ようこそ、菖川高校演劇部へ❕】
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