第16話 未来への設計図~今井翔平~
午前中いっぱい模試を解かされ、ようやく解放された昼休み。今日は佑都が負けたので、今コーヒーと購買のパンを人数分買いに行ったのを待っている。この後は受験者情報や志望校の記入だったり学習や進路についての調査をやって、自己採点をしてやっと帰れるらしい。まあ、今回は本当に一発目の模試だから希望の進路系統にさえマークすればあとは任意らしい。入学4日目でそんな曖昧なこと聞くぐらいなら最初からするなよと言ってやりたい。
「で、どうよ翔平。今回のテストは」古河が満面の笑みで問いかけてきた。
「まあお前なら余裕だろ。後で復習手伝ってくれよ?」と中田が続ける。
「まあまあは出来たんじゃないか?まだ授業すら受けてないんだし、そんな身構えたり一喜一憂したりする必要ないだろ」とりあえず無難にこう返してみる。正直言うと俺は今日のテストには全く興味がない。それほど解きごたえがあったわけじゃないし全国にいる高校生が受けると言ってもそれ全員が大学を受けるわけじゃない。実際、佑都は「僕は就職も考えてるし、いきなりこういうのは難しいな…」と困った顔をしていた。最も、こいつらにそう言ってもろくな答えが返ってこないのは分かってる。この程度の問題じゃ俺が退屈なのは知ってるだろうし、何ならそういうことを言わせたいのかもな。誘導尋問で失言を狙うマスコミのそれに発想が似てる。
「はいはい、ユートーイーツですよー」そうこうしていると、佑都がビニール袋を両手に持ちながら帰ってきた。俺はその袋に入ったパンの中から真っ先にカツサンドを手に取る。コーヒーに関しては古河以外はブラックでも飲めるから心配ないが、パンは本当に1秒でも遅れると欲しいやつを手にすることはできない。特に今日は試験後で気が立ってるせいか全員が一層食い意地を張っている。カツサンドをとった俺への視線が物語っている。
「で、全員揃ったから聞くけど、お前らこの後なんて書くんだ?」あんパンを片手に古河が聞いてきた。どんだけそういうのに興味があんだよこいつは。
「僕はまだ分からないな、就職もありだと思うし」佑都が真っ先にそう返した。話題にそこまで興味がないのか、それとも会話の流れが読めたのか、言い終わるとすぐにコロッケパンに視線を戻す。
「一応理系かな。でもまずは高校生活楽しみたいな」中田はおいしそうにメロンパンを食べながら笑顔でこう返す。付き合いがあるとはいえ中学まで別の環境にいたせいか、笑顔で頷く古河の裏側にまだ気づいていないようだ。俺はこいつの顔を見てオチを確信したようで、「で、お前はいつものこれだろ?」と古河に言いこう続ける。
「頭のいい奴は旧帝に行く」言いながら佑都に視線を送ると、
「金持ちは慶應に入る」と息ぴったりに言葉をつなぎ、
『この2つを極めたやつが医学部に入る』最後はしっかりハモった。
「そうそう、まあこれくらい当然だよな」古河はご満悦なようだ。高校に入った直後からこれって、とある界隈にどっぷり浸かってんなあ。体系的に赤いジャージ着てても違和感ないし。因みにこのセリフを初めて聞いた中田とこの時たまたま近くにいた久保はドン引き、そりゃそうだ。まあ、フォローするとすればこいつはこういう資格あるくらいには頭いいぞ。それこそ俺と同じくらい。サボり魔とコミュ障の二刀流を極めた結果、親と先生の両方から私立行くのを止められただけで。
「別に学歴なんてファッションでも何でもねーぞ?お前がそういうとこ行ったとしてもマウントの道具にするだけで結局中身は変わらないから意味ねーだろ」なぜか今日は少し強めに言ってしまった。これに対してこいつは「はいはいでたでた。そういう翔平君は大学でなにがやりたいんですか?」と、効いてんのか効いてないのか分かりにくい口調で返してくる。ただ、そう言われても今はこれしか返せない。
「まあ、いろいろありすぎて迷ってるってとこかな?」互いに妙に熱くなっていたようで、一度トイレで頭を冷やそうと思い席を立った。後で佑都に聞いたら向こうは本当に面白がってただけらしいが。
珍しく言い合いになってからおよそ30分、俺の手元には希望進路の系統を示したアンケート冊子とそれを記入する紙。意欲があれば具体的な大学・学部名も記入していいそうだ。実際のところ、俺はやりたいことを絞り切れていないのが本音だ。実際文系でも理系でもやりたいことはある。
文系に行くなら文学部一択なのだが、言語をどれに絞るかが悩ましい。日文で小説に触れるもよし、英文学科で原書に読むのもあり。何ならイタリア系の学部に入って実際にローマやミラノに行くのもいいな。現地でF1を噛み締めたいもんだ。あーでも、ウィーンも捨てがたいな。人生で一度は音楽の都に行ってみたい。
一方で、理系の学部行くなら車のエンジンを研究したいし、電気自動車がいかにクソかを示す論文を世間に叩きつけるのも良さそうだ。待てよ、そっちに行くなら販売や自動車の専門学校もありだな…
とまあこんな感じで、やりたいことはあるが全く持って選びきれてないのが現状だ。頭を整理する意味も含め、目の前の大学一覧に目をやりつつ自身への質問に1つ1つ答えていく。将来の設計図は早めに完成させるに越したことはない。
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