第5話 面白そうな組み合わせ~岩田洋平~

「岩田洋平です。色々スポーツやってて、中学では卓球部のキャプテンでした。よろしくお願いします!」一人一言ってルールだと、こんぐらいしか言えんよなあ。まあこうしなきゃ全員いえないしね。因みに補足すると、幼稚園から小3まで空手を、小4から卒業まではサッカーも習ってた。こういうとスポーツエリートみたいに見えそうだけど、別にどれもそこそこやれたぐらい。本気でやったのは中学の卓球ぐらいだよ。なんで別に運動部はもういいし、その分高校ではもうちょっとアニメ見たりゲームやったりしたいとこよね。スポーツが生活の中心にあると一層夜更かしなんかできないし、シンプルにそんな時間ないんだよなあ。練習終わって帰ってきたらもうヘトヘトだし。


 さて、全員自己紹介が終わったところでようやく帰りの時間になった。担任の先生は角刈り頭の典型的な熱血教師。ちょっと老けてるけどまだ30歳になったばかりで、野球部と陸上部の副顧問をしているようだ。どうやら来週部活動説明会があるらしい。また色々なとこから誘われそうだし、あんまり大っぴらには話さないようにしておこう。さて、今日はこの後どうしようか。駅前にカラオケがあるようだし、そこから少し歩いたら大きなショッピングモールもあるという。取り合えずだれか誘ってみるか。…とその前に、あいつを回収しとくか。


「おーい、廉さん、帰りますよー」

それを聞くや否や「はいはーい、今行くよガンデン」といつもの調子で小走りでやってきた廉。あ、そうそう、こいつからはガキのころからこのあだ名で呼ばれることが多い。本人曰く「いわたの漢字をカタカナで読むの!かわいいし面白いでしょ?」だそうだ。さっきは言わないがこのタイミングでってことは、高校でもこれを浸透させる気なのか。それはそうと、後ろから一人浮かない顔をした様子でついてきた。朝は見なかった顔だ、ええとたしか

「藤松君だっけ?俺は岩田洋平、よろしくな!」

そう言って右手を差し出した。俺は初めて人に会うときに大体これをやる。なんて言うか、この反応でどんな風に接すればいいかがなんとなくわかる気がするんだ。彼は「う、うん。よろしく」と言い、言葉は少なく表情は自信なさげだが、それに反して両手で思いのほか強く握り返してきた。一瞬見えたその目は、不安と何かを切に望むようなものが映っていた。


そして次の瞬間、彼の口から予想外の言葉が出た。

「あの、さ、岩田君。…やっぱり、この人と付き合ってるの?」

は?ツキアッテル――唐突の理解不能なワードに当然ながら脳がフリーズした。

「あ、ごめんね。さ、流石にそうだよね、うん」

次の言葉が出た瞬間、脳内をフル回転で駆け巡っていた言葉がようやく理解できた。そして互いに顔を見合わせ大笑いする。

「いやいや、そんな訳ないよ。誰がこいつなんかと」「そうそう、僕の好きな人がこんなやつなわけないじゃん」まあこんな調子なので、こんな風に揶揄われるのはしょっちゅうだけど、こんな真剣な目をして聞いてくるとは思わなかった。しかし、何故いきなりそんなことを聞いてきたのかは分からない。一瞬一目ぼれを疑ったが、はたしてこいつに惚れる奴がいるんだろうか。確かに端から見ると可愛いかもしれないが、それはこの悪魔の本性を知らないだけだ。


「実はさっき、本田さんが何かを落としたんだ。それを拾ったら、俺のイヤホンのケースだったんだ」ぁ―なるほど、こいつ早速やったのか。「えー?なにそれ僕知らないよー」と廉はわざと甲高い声で言うが、この仕草は確実にクロだ。

「絶対俺のだよ」「僕がやった証拠あるの?」「証拠って…てか君、さっき俺の背中本でたたいたじゃん」「何よ、起こしてあげたのにひどい!ねえガンデン、この人怖いよー」言い争いの末、廉が顔を隠しながら俺の後ろにやってきた。藤松君は泣かせてしまったとばつが悪そうな表情になりっている。ほんとに泣かせたならぶん殴ってやるが、こいつのウソ泣きはこういう時の十八番だし、今この呼び方をしてる時点でふざけているのはわかる。顔を見たが案の定にやにやしている。たく、初日から面倒ごと持ち込みやがって。


「いやー藤松君、ほんっとごめんな。お詫びのしるしにってわけでもないけど、これから遊び行こうと思ってるんだ。一緒に行かない?」廉はまだ口を尖らせているが、奢るといった3秒後に笑顔になった。現金な奴だ。藤松君も特に予定はなかったようで、気まずそうだが一緒に行くことのなった。



この二人、結構相性よさそうじゃん。

この時俺は、何となくそう思った。






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