第6話 山を双眼鏡で見るな

 それは、この村に代々伝わる、決して破ってはいけないおきてだった。


なぜ双眼鏡で山を見てはいけないのか?


その理由は、村人たちの間で「くねくね」という恐ろしい存在の噂として語り継がれていた。


「くねくね」は、山奥に棲むという、人ならざる者。


その姿は、まるで、木の根が這いずるように、地面を這い、くねくねと動くことから、そう呼ばれているという。


その姿を見た者は、皆、精神を病み、廃人となってしまったという。


村人たちは、その恐ろしい噂を信じ、決して山を双眼鏡で見ることはなかった。


しかし、若者たちは、その言い伝えを単なる迷信だと考えていた。


「そんなもの、いるわけがない。」


そう思った若者たちは、好奇心から、こっそりと山を双眼鏡で覗き始めた。


ある日、村の若者、文雄は、山を双眼鏡で覗いていた。


彼は、山奥に、奇妙な動きをしている白いものを発見した。


それは、まるで、木の根が這いずるように、地面を這い、くねくねと動いていた。


文雄は、その奇妙な動きに、ゾッとした。


しかし、彼は、恐怖よりも、好奇心の方が勝っていた。


彼は、双眼鏡を離すことができず、その奇妙な動きを見つめ続けた。


すると、その奇妙な動きは、次第に、人間の形に近づいてきた。


それは、まるで、人間が這いずるように、地面を這い、くねくねと動いていた。


文雄は、その光景に、言葉を失った。


それは、まさに、村人たちの間で語り継がれていた「くねくね」だった。


文雄は、恐怖に震えながら、双眼鏡を落としてしまった。


恐怖のあまり、彼は、その場から逃げ出した。


しかし、彼の心は、すでに、恐怖に支配されていた。


文雄は、夜になると、悪夢を見るようになった。


夢の中で、彼は、くねくねに追いかけられる。


くねくねは、彼の背後から、這いずるように近づいてくる。


文雄は、必死に逃げようとするが、くねくねは、彼を執拗しつように追いかけてくる。


そして、彼は、ついに、くねくねに捕まってしまう。


くねくねは、彼の体を、ゆっくりと、ゆっくりと、くねくねと曲げていく。


文雄は、耐えられずに、目を覚ました。


しかし、彼の心は、すでに、恐怖に支配されていた。


彼は、精神を病み、廃人となってしまった。


村人たちは、文雄の姿を見て、再び、山を双眼鏡で見ることの危険性を思い知った。


「山を双眼鏡で見るな。それは、くねくねを見ることになる。くねくねを見た者は、皆、精神を病む。」


村人たちは、その言葉を、子供たちに語り継いだ。


その後、村人たちは、再び、山を双眼鏡で見ることはなくなった。


しかし、山奥には、今も、くねくねが棲んでいる。


夜になると、山からは、奇妙な音が聞こえてくる。


それは、くねくねが、地面を這いずる音なのか、それとも、人間の悲鳴なのか。


誰も、その答えを知らない。

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