太陽の塔

益荒男 正

太陽の塔を登る

朝だ。

起きた。

キッチンが汚い。

消えよう。


常々こんなことを考えるくらいには病める時が多く健やかなる時が無い。


今は夕飯の米を研ぎながらこの文章を書いている。

もう家族の飯を用意するのも飽き飽きだ。

これからは各自が調達するようにしてもらう。

異論は認めない。



嘘である。

こんな文字の言う事を本気にしてどうするのだ。

そんなことではこの世は生きていかれない。

しっかりしてほしい。


さて、そんな私が毎日をどう生き抜いているか。

タイトルの通り、『太陽の塔』を設定することだ。


太陽の塔、1970年大阪万博のシンボルとして岡野太郎氏によって創造された。

実にセンセーショナルなデザインだった。

ただあれが表現するところは生命エネルギーの発散らしい。

そんなエネルギーはもう私に残っていないのに。


話を戻そう。

ここで言う太陽の塔は大阪万博うんぬんは全く関係無い。

太陽のポカポカイメージと上に登る感覚を文字として合わせただけだ。


つまるところ簡単な目標だ。

今日はこれをしたら1日を有意義に生きることができたと実感するイベントを決める。

それだけ達成すれば生きてていいと思う。


目標は何でもいい。

『洗濯機を回す』とか『会社行きの電車に乗る』とか『参考書を2ページ読む』とか、自分に合ったものにする。


最大の注意点は達成出来ないものにしないこと。

『寝具をクリーニングに出す』とか『プレゼン資料を完成させる』とか『小テストで7割取る』とか、ちょっと頑張れば出来そう……くらいのものにもしないこと。


高望みすると羽が焼けただれたり雨で全てを洗い流されたり言語を無茶苦茶にされたりするから。

確実に出来るものでないといけない。

『ベッドから降りて背伸びする』なんてものでもいい。


徐々に高く設定する必要も無い。

なんなら低くなったっていい。

誰かに誇るものではないのだ。

遠慮して何になる。

元から誇るものもなかろう。


そうして今日という日が無駄にならなかったと言い聞かせて明日を迎える。

その繰り返しでどうにかこうにか生きている。

これすら億劫になれば本当に消えるしかない。

まぁそれも悪くないかもしれないが。


正直、もっと気楽に生きたいなら他にも方法はあると思う。

これしか生きる道が無いように言うが、多分視界が狭いだけ。

でないと周りの人間はどうやって生きてるという話だから。


しかしながら、視界を広げる努力は出来ない。

辛いから、苦しいから。

今の自分を捨て去るほどのエネルギーを発揮しなければならないから。

そこから立ち上がれなんて言われても知ったこっちゃない、お前が引き上げてくれよと思うばかり。


そうだ私は苦しむ自分に酔っている。

この苦悩こそ自分をたらしめていると思い込んでいる節がある。

客観的に見ればおかしい人間であることも何となく承知している。

しかし今さらどうしろと言うのだ。

やり直すには年を取りすぎた。


亡き祖母にそちらに連れて行ってほしいと毎日思う。

涙を流しながら家事や仕事をしている時もある。

次はもっといい子に生まれてくるから。

また膝の上に乗っけて頭を撫でてほしいと。


しかしそんなこと口にはできない。

祖母への冒涜になるから。

死んだ人間に自分の理想を当てはめて偶像化するなどなんと厚かましいことか。


生前嫌っていた頃もあったろう。

何度も同じ話をするし寝てばかりで構ってくれないし。

それでこちらから去ったくせに何を今さら。

美化なんて許されるはずがない。


ちょっと吐露し過ぎたか。

まぁこの際構わない。

ついでに言うなら他人は見下してしかるべきだ。

というか見下すことしかできないはずだ。


毎朝通勤通学ですれ違う人々。

彼らに敬意を払うことができるか?

私は出来ない。

ただの障害物でしかない。


あのおじさんは毎晩ボランティアに励む聖人かもしれないし、あのおばさんは日々花壇に水をやり道のゴミを拾う善人かもしれない。

だけどすれ違う一瞬でそんなストーリー知りようがない。


ただ障害物としての邪魔を感じるだけ。

プラス要素が無いのだ。

だから見下すのがデフォでいいと思う。

何ら気後れする必要は無い、当然のことだ。


世界は変わってくれない、自分が変わるしかない。

でも自分を変えるエネルギーが残ってない。

だったら自分を消すのが最も効率的なのは間違いない。

唯一、後悔しても本当に遅い最終手段ではあるが。



さてさて、書くのも億劫になってきた。

もうそろそろ終わりにしよう。

今日の太陽の塔は十分過ぎた。

塔を登るという話なのに行は下へ下へ続くのも気が滅入る。


どうだろう、こんな人間生き辛いに違いないと思わないか?

こんなのもいるのだとぜひ見下してもらいたい。

私はこれからも登り続けているから。


ひょっとしたら街中ですれ違うかもしれない。

もしそんな人間がいたらそそくさ離れた方がいい。

何を考えられているか分からない、たまったものではないから。

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太陽の塔 益荒男 正 @kamulo

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