第36話 聖女
エルミアが杖を構え、ルドワンがエルミアから離れる。
「くくく、懐かしいな。汝が我に挑んだ時が、もう遠い昔のことのようだ」
「あれから、あたしも、あんたとの旅で強くなった。それだけは、感謝してあげるわ」
「汝らしくもない。さあ、来るが良い。汝のハラワタを喰らいつくしてくれよう!!」
エルミアがバフを一瞬で展開し、光の矢を幾重にも放つ。
避けると、背後の壁が消し飛んだ。
開いた穴から飛び降り、地面に降り立つ。
我と同じように、魔王城から飛び降りるエルミア。
空中のエルミアに向けて、闇魔法を放つ。
「ふんっ!」
杖の一振りで弾かれる。
指を鳴らし、バフを剥がす。
着地前に一瞬でバフを再展開し、地面に降り立つエルミア。
エルミアが一瞬で我との距離を詰め、杖を振りかぶる。
拳で杖を吹き飛ばし、エルミアの両腕を掴んで、そのまま地面に押し倒した。
「⋯⋯いいわ、やりなさいよ。あんたにやられるなら、あたしも本望よ」
「我を倒してでも成り上がる。そこに、我は可能性を感じていたのだがな」
エルミアの瞳が、涙で濡れた。
「だって、仕方ないじゃない! あたしが教会に逆らえば、ルミールの病は治らない! でも、あんたやティナ達とも戦いたくない! だったら、わたしが死ぬしかないじゃない!!」
「ふははははは! 聖女エルミアよ! なにゆえもがき死ぬるのか? あがきこそわがよろこび。生き抜く者こそ美しい。さあ わがうでの中で幸せになるがよい!」
「!? それって!? ちょっ!? やめっ!? やめなさい馬鹿⋯⋯んむ―――っ!?」
エルミアの唇を強引に奪う。
眼を見開き、驚くエルミア。
伝承法。
『やれやれ、ボクの勇者は天使使いが荒いね。ふむ、ここだね。失礼するよ』
『!? 貴方は、姉様と一緒にいた女性!? その翼は、まさか天使様ですか!?』
『クス、ルミール君。突然だけれど、ボクに攫われてくれないかな? 全部、キミのお姉様を助けるためなんだ。ついでに、色々と協力してくれるかい?』
『ごほっ、わかりました。姉様のためなら、何だっていたします。天使様、貴方に付いていきます!』
流れ込んでくる、アレンの力と記憶。
唇が離れる。
「⋯⋯良かった。ルミールは、助け出されていたのね」
「うむ」
「⋯⋯まあ、それはそれとして」
「ぬ?」
「なんでわざわざキスしたのよ!? 言葉で伝えればいいじゃない!」
「くくく。こうでもしないと、汝は信じぬであろう?」
「信じるわよ! 流石に、あんたのこと、そこまで嫌いじゃないわよ!!」
「ふははははは! 口付けは、我がしたかったからした!」
「子供か! 初めてだったのよ!? なんで初めてがあんたなのよ!」
「ぬ? ティナもアガリアも、我が初めてだと言っていたぞ?」
「この流れで他の女の子の話をするなーっ!!」
アレンを払いのけ、障壁魔法を展開する。
展開した障壁に、光の魔法が弾かれる。
「おやおや。エルミアさん、何故、魔王をかばうのです?」
笑う大司祭ルドワン。
「ルミールが助け出された今、もう、あたしが、教会の犬に成り下がる理由は無くなったわ」
「ふむ、バレてしまいましたか。ですが、よろしいのですか? 教会を追放された貴方は、もはや聖女ではない。聖女の地位と金を失うのですよ?」
「いいわ。アレンが教会を潰して、あたしが新しい教会のトップになるの。良い話だとは思わない?」
アレンを見る。
「ふははははは!! やっとエルミアらしくなってきたな!!」
哄笑するアレンから、あたしの杖を受け取る。
「さあ、覚悟しなさい、大司祭ルドワン。わたくしが、ボッコボコにして差し上げますわ!」
「ふふ、吸収の法で誰よりも強くなった私に、貴方が勝てるとでも――おごぉっ!?」
ルドワンの腹を思い切り杖で殴りつける。
「馬鹿な!? 見えなかった!? この私が、攻撃を食らうなど!?」
「アレンからもらった力と、倍率20倍のバフ。合わせて、ざっと普段のあたしの100倍ってところかしら。一撃で肉塊にならなかったところは誉めてあげるわ」
「ぐっ!? 認めない、認めませんよおおおおおおっ!?」
「おらおらおらおらおらあらおらーッ!!」
杖で殴打しまくる。
「おら――――――っ!!」
最後の一撃。
杖で吹き飛ばす。
「ぎゃああああああ――――っ!?」
血だらけのルドワンが吹き飛ぶ。
「ぐふっ。ふふふ、ふふふふふふふふっ!!」
倒れたルドワンが、血を吐きながら笑う。
「気持ち悪いわね。でも、これで終わりよ」
「できれば、使いたくないと思っていましたが。こうなっては仕方ありませんね。良いでしょう。貴方がたに見せてさしあげましょう。この、神の姿を!!」
ルドワンが、何かの魔法の詠唱を始める。
四方から、何かがルドワンに集まってくるのがわかる。
「何? 一体、何なの?」
困惑していると、ティナとトノカとアガリアが転移魔法で姿を現した。
「あっ! エルミアだ! おかえりっ!」
トノカに抱きつかれる。
「ええ、ただいまですわ、トノカ様」
「良かった。おかえりなさい、エルミアさん」
「はい。ご心配をおかけいたしました」
「クス。良かったね、エルミア君。ところで、火急でひとつ、キミたちに報告しておきたいことがあってね」
「ぬ? アレのことか?」
アレンが倒れ伏したルドワンを指差す。
「うん。勇者ロムルス、剣聖ツバキ、賢者リアンの死体が突然消えた。おそらく―――」
「ふふふふふふふっ! 今、私に全てを捧げなさい!」
ルドワンの周りに、勇者ロムルス、剣聖ツバキ、賢者リアンの死体が現れる。
「吸収の法!!」
ルドワンと三人の姿が光に包まれる。
「やれやれ。間に合わなかったか」
「なっ!? あれは、何なのでしょう⋯⋯?」
「うわあ~! すっごいおっきい~!」
「うわキモ。こほん、気持ち悪いですわね」
「ふははははは!! ラスボス登場だな!!」
光が晴れると、巨大な丸い肉塊が宙に浮かんでいた。
丸い巨大な肉塊の上部。
ボコボコと蠢き、ルドワンの顔と上半身を形作る。
「ふふふ。さあ、勇者たちを吸収し、神となったこの私が、貴方がたを討ち滅ぼして差し上げましょう!!」
魔王アレン Lv453→Lv1
勇者ティナ Lv485
竜人トノカ Lv402
聖女エルミア Lv103→Lv555
天使アガリア Lv374
大司祭ルドワン Lv810→自称神ルドワン Lv3199
勇者ロムルス Lv801☓→Lv1☓
剣聖ツバキ Lv797☓→Lv1☓
賢者リアン Lv794☓→Lv1☓
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