第11話 依頼

「うわあ~っ! アレン様、あのお店、とっても素敵です。買い物に行ってもよろしいでしょうか?」


「あはは、ひとがいっぱい♪ ふはは、ひとがゴミのようだ♪」


 ティナとトノカに手を引かれながら、白に統一された街並みを歩いていく。


 宗教国家レミュゼル。


 大陸の中心にあり、最大の版図を持つ国。


 王政を取っているが、大陸全土に信者を持つレナス教の宗主国であり、実権は教会の大司祭が握っている。


 過去には王と教会の対立から、王の勅命を平然と無視し、王に土下座させる事件が起きたこともあった。


 今は、王と教会の関係も悪くなく、政情は安定していた。


「でも、この国の王様がティナに用なんて、なんだろーねー?」


 いつの間にか買っていた饅頭を頬張りながら、トノカが言った。


「わかりません。ですが、光栄なことだと思います。こんなに素敵な街に来るのは初めてですから」


 ティナが照れながら返す。


 アーランドに戻り、数日の間、のんびりしていると、ボッシュから呼び出され、一通の書状を渡された。


 レミュゼル国王からの招待状。


 内容はこれまでのティナのギルドでの武功を表したい。


 そして、国王自らティナへ依頼したいことがあり、そのために王都へ来てほしいこと。


 ティナは我とトノカの同行を条件に了承した。


 そして、アーランドから馬車で数日の移動のあと、今に至る。


「ねえねえ。あれ、あそこっ!」


 トノカの指さした先。


 二頭の馬に引かれ、ゆっくりと進む馬車。


 天井の無い車両から、白い儀式服を着た金髪のエルフが通りの人々に笑顔で手を振っていた。


「エルミア様だ!」


「きゃーっ、エルミア様ァーッ!!」


「見た? 今、わたしを見て微笑んだわ!」


「エルミア様ーっ! こっちにも視線くださーい!!」


「ありがたやありがたや⋯⋯」


 エルミアと呼ぶエルフを見ながら、歓喜に湧く聴衆。


「わぁお、たしかに美人さんだぁ」


「アレン様、あの方は?」


「エルミア・ルチル・ヘリオドール。レナス教の司祭で、数年前に教会から聖女の位を叙任されたエルフ族の少女。レナス教の聖女は民草に教会の教義を広く布教する使命を持つ。聖女と呼ばれる者は数名だけで、エルミアはその一人だ」


「それにしても、すごい人気だねえ。いいなあ、トノカもあんな風にちやほやされたい」


「くくく、竜信仰のある国ならば、トノカも良い偶像になれるぞ?」


「ぐうぞう?」


「レナス教の教祖は、天使レナスに仕える聖女だったという。つまり、今の聖女は眼で見て手で触れることのできる教祖の代理。並の容姿では聖女にはなれないということだな」


「つまり、ただの神輿だと?」


「歴代の聖女に、最高位の大司祭に上り詰めた者はいない。その事実から考えれば、そうなのだろうな。遺憾だが、年月にはどんな美も逆らえぬ」


「でも、エルフって長命なんでしょ? だいじょうぶだいじょうぶ!」


「他にも、教会内での政治的な駆け引きもあろう。教会は人間族が大部分の権力を握っている。エルフという種族が高い地位につくのを面白く思わない者も少なくない」


「ん~、トノカ、むずかしい話はわかんないや」


 話していると、馬車が群衆と共に、すぐ横を通り過ぎる。


 手を振っていたエルミアと眼が合い、一瞬驚いた顔をするエルミア。


 だが、すぐ笑顔に戻り、手を振る。


「あっ! いま、トノカに手をふった! おーい!」


「ふははははは! この饅頭は美味いな!!」


「あ~っ!? それトノカの~っ!!」

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