バッドエンド2:メルクリウス
世の中の不条理を解きほぐし、未解決の問題を解決する。それをするには世界には情報規制が多過ぎて、一番多くの資料に当たれる職業が神官だったという、それだけのために神官になった。俺には残念ながら信仰心は存在しない。
そのせいでムルキベルには怪訝な顔で見られ、オケアヌスからは変人を見る目で見られ、グラディウスからは最後まで信用はされなかった。
どういう理屈なのか、最後まで俺のことを信じていたのはウエスタだった。信頼とは違う、一番利用しやすかったのが俺だったというだけだから、結局は利用価値が高かったのだろう。
そんな彼女が捕まり、煉獄に連行された。
あれは悔い改めるまで、悪夢の中に放り込むみたいなことをフォルトゥナは宣伝しているが、実際のところあれは聖女主導による拷問だろうと推測している。
人間、悔い改めるまで嫌なことで責め立てられたら、悔い改めるよりも前に壊れてしまう。大方、フォルトゥナは彼女を壊したかったのだろうが。
ただ疑問が湧いた。
「聖女フォルトゥナ。どうして一介の行儀見習いにそこまで固執するんですか?」
ウエスタが捕縛され、彼女の宣言通り、彼女側に着いた面々は殺されることはなかった。ただ利用価値のある者たちはフォルトゥナの監視下に入り、利用価値のない者は神殿から立入禁止を食らったという、それだけの話だ。
俺は前者だったがために、研究の自由は得られたものの、常に巫女や他の神官の監視を受けることになり、自由を得るためには彼らに賄賂を渡して根回しをする必要があった。
聖女フォルトゥナはこちらの質問に、輝く笑顔を浮かべた。
おそらく盲信者であったのなら、彼女の笑みは神々しく見えたのだろうが、俺からはあれはなにかを企んでいる顔にしか見えなかった。
「彼女からは面白いものが見えたのです」
「ほう……面白いものですか」
聖女フォルトゥナの奇跡のひとつに、信者の記憶を覗き見るというものがある。反逆を企てるときは俺が閉心術を使って記憶の覗き見を封じていたが、今のウエスタは煉獄の中にいて、彼女に繰り返し責め具を受け続けているのだから、俺の閉心術はとうの昔に解かれてしまっている。
彼女から、そんなに面白いものがあったか?
ウエスタはただの行儀見習いであり、実家も田舎の下級貴族である。取り立てて強いものも面白いものもなかったはずだが。
しかし聖女フォルトゥナは謳うように続けるのだ。
「彼女を壊せば、壊しきれば、わたくしたちは理想郷へと方舟を出せるのです」
そううっとりとした声で言ったとき、彼女のおぞましさと一緒に。
……ウエスタを助ける方法が頭を掠めた。
俺自身は未だに聖女フォルトゥナと対峙するときはずっと閉心術を使い、なおかつ心の上に他のことを考えているフェイクを置いて、彼女に記憶を読み取れないように細工をしている。聖女フォルトゥナの真意を聞き出さなければ、彼女の信頼を勝ち取ることも、ウエスタを助けることもできないからだ。
「詳しくお話し願えますか?」
これは一種の賭けだった。
普段ならば、なにもわからないままダイスを振ることはないが、そうしなかったら彼女を助け出すことはできない。
あれはたしかに面白みのない背景の人間ではあるが、面白みがない人間ではなかったのだから。
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