キリン編 第9話:夜を見守る者たち

 ◆新しい夜の始まり


 夜の裂け目は、静かに閉じた。

 まるで、その存在が初めからなかったかのように——。


 それでも、ゆりあの胸には確かに"何か"が残っていた。


「クック……巡る夜……」


 オウムが、優しく囁く。


 ——夜は消えるのではなく、形を変えて続いていく。


 それを知ったゆりあは、ただ星空を見上げた。


 この空は、また新しい夜へと繋がっていくのだ。



 ◆キリンたちの言葉


 ゆりあが振り返ると、キリンたちは静かに佇んでいた。


 夜の裂け目が消えても、彼らは変わらない。

 ただ、静かに夜空を見守るだけ。


「……君たちは、ずっとこうして夜を見つめているんだね」


 キリンの一匹が、ゆっくりと首を縦に振る。

 それは、まるで「そうだ」と言っているようだった。


 ——彼らは、夜の巡りを知っている。

 そして、ずっとそれを見守ってきた。


 ゆりあは、そんな彼らにそっと微笑みかけた。


「……私も、これからは君たちと一緒に、夜を見守るよ」


 キリンたちは、静かに瞬きをした。

 それは、まるで「歓迎する」と言っているように——。



 ◆夜の語り手として


 ゆりあは、そっと夜空に手を伸ばした。


 ——夜が巡ることを、私は知った。

 ——だから、私はこれからも夜を見つめ続ける。


 それは、戦うことでも、守ることでもない。

 ただ、夜が夜であることを見届けるだけの存在。


「クック……"夜の語り手"……」


 オウムが、優しく羽を揺らした。


「……そうだね。私は"夜の語り手"になるんだ」


 夜の記憶が、受け継がれていくことを、誰かが知っていればいい。

 それを知ることで、夜の世界は、ずっと続いていくから。


 ——夜の終わりではなく、夜の始まり。

 ——そして、その流れを知る者として、私はここにいる。


 ゆりあは、深く息を吸い込み、静かに目を閉じた。



 ◆夜の見守る者たち


 風が、そっと吹き抜ける。


 キリンたちは、静かに夜空を見上げている。

 そこには、輝く星々と、新しい夜の静寂が広がっていた。


 ゆりあも、そっと同じ方向を向く。


「……きっと、また新しい夜が来るね」


 そう呟いたその時——


 ——ザァァ…… ザザァ……


 ゆりあの耳に、どこか懐かしい音が届いた。


「……波の音?」


 ここは動物園の中。

 海は、遠いはずなのに——。


「クック……"静かな旅人"……」


 オウムが、ぽつりと囁いた。


 静かな旅人——。

 それは、まるで"誰か"を指しているかのような言葉だった。


 ゆりあは、ゆっくりと目を開けた。


 夜空の星が、一つ流れる。


 ——そして、次の物語が始まる。


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