キリン編 第7話:夜の囁く者

 ◆闇の向こうに届く声


 ゆりあは、夜空にぽっかりと開いた"裂け目"を見つめていた。

 その奥には、"囁く者"と呼ばれる存在がいる——。


 ——夜を喰らう者。

 ——夜の記憶を奪う影。


 でも、それは本当に"悪いもの"なのだろうか?


「クック……"敵"じゃない……かも……?」


 オウムが、そっと羽を揺らす。


「……私も、そんな気がする」


 ゆりあは、夜空を見上げた。


 そこには、確かに"何か"がいる。

 けれど、怖い気配はしなかった。


 むしろ、それは——


 悲しそうに見えた。



 ◆囁く者の正体


 ——夜の裂け目から、黒い影のようなものがゆっくりと揺れる。


「クック……夜を喰らってる……でも……」


 オウムの囁きに、ゆりあは気づいた。


 ——"囁く者"は、夜をただ消しているわけではない。

 むしろ、その"残響"を抱きしめているように見えた。


「……ねぇ、あなたは、夜を奪ってるんじゃなくて……"守ってる"の?」


 ゆりあがそう尋ねると——


 ——静かに、影がゆらめいた。


「クック……聞こえる……?」


 オウムが、小さく囁く。


 ゆりあは、耳を澄ませた。


 ——『夜は、消えゆくものだから』


「……!」


 ——『だから、私は、それを"記憶"している』


 ゆりあの心臓が跳ねた。


「……あなたは、夜を喰らってるんじゃなくて……"夜の記憶を抱えている"の?」


 影が、ゆっくりと揺れる。

 まるで、「そうだ」と言っているように——。



 ◆キリンたちが見守る理由


 ゆりあがキリンたちを振り返ると、彼らは静かに立っていた。

 彼らは、"夜の記憶が失われる"ことを知っていたのだ。


 でも、それは"ただ消える"わけではなかった。


 ——囁く者が、それを抱えていた。


「クック……夜の記憶を、預かってる……」


 オウムが、小さく囁く。


「じゃあ……夜の裂け目は……?」


「クック……"記憶の境界"……」


 夜が削れているわけじゃない。

 そこは、夜の記憶が移される"境界"だったのだ。


「……キリンたちは、それを"見守っていた"んだね」


 ゆりあの言葉に、キリンの一匹がゆっくりと瞬きをした。

 それは、まるで「そうだ」と言っているようだった。


 彼らは、"夜の記憶が受け継がれる"瞬間を、ずっと見届けていたのだ。



 ◆夜の記憶を守るために


「……でも、記憶が移されるって、どういうこと?」


 ゆりあがそう呟いた瞬間——


 ——ふわり、と夜の裂け目から、淡い光がこぼれた。


「……?」


 今まで黒く沈んでいた裂け目の奥に、小さな星のような光が揺れている。


「クック……"夜の残響"……」


 オウムが、そっと囁く。


「残響……?」


「クック……夜の記憶は、"消える"んじゃなくて……"新しい夜に受け継がれる"……」


 ——夜の記憶が、囁く者に預けられる。

 ——そして、また新しい夜へと"巡る"。


「……夜は、"消えてしまう"わけじゃないんだ……」


 それを知った瞬間、ゆりあの胸の奥が、少し温かくなった。


 夜の裂け目は、怖いものじゃない。

 それは、夜の記憶が次の夜へと繋がるためのものだった。



 ◆ゆりあの決意:夜を見守る者として


「……もし、夜の記憶が受け継がれていくのなら……」


 ゆりあは、静かに夜空を見つめた。


「私も、見守りたい。

 夜が、新しい夜に生まれ変わる瞬間を——。」


 オウムが、小さく羽を揺らす。


「クック……"夜の語り手"……」


「夜の語り手?」


「クック……夜の記憶を見守り、伝える者……」


 ゆりあは、ふっと笑った。


「……じゃあ、私も、"夜の語り手"になれるかな?」


 夜の裂け目の奥で、"囁く者"の影が揺れる。


 まるで、それを歓迎するように——。



 ◆次回「夜明けの調べ」——新しい夜の始まり


 夜の記憶は、消えるものではない。

 それは、次の夜へと受け継がれるもの——。


 ゆりあは、夜を"怖れる"のではなく、"見守る者"として立ち上がる。


 To be continued…


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