キリン編 第6話:夜の裂け目が広がる

 ◆境界が揺らぐ瞬間


 ——星が消えた夜。

 それは、ただの天体現象ではなかった。


「クック……"境界"が広がってる……」


 オウムが、不安げに羽を震わせる。


 ゆりあは、夜空に目を向けた。

 昨日よりもはっきりと、"裂け目"の範囲が広がっている。


 ——ただの暗闇ではない。

 そこには、"何か"がいる。


「……今日は、昨日よりも強く感じる……」


 ゆりあの肌に、冷たい感覚が走る。


「クック……見える……?」


「……うん、何かが、こっちを見てる気がする」


 ——その瞬間だった。


 ——ゴォォ……ザザァァ……


 風がざわめき、裂け目の向こう側から"何か"が動く音が聞こえた。


「……!?」


 ゆりあは、思わず後ずさった。


 夜空の裂け目の中に、"黒い影"のようなものがゆっくりと動いている。


「……あれは……何?」


 それは、まるで"夜の奥底から目覚めたもの"のようだった。



 ◆キリンたちの警告


 ゆりあが足を踏み出そうとした瞬間——


「——危ない」


「えっ?」


 ——声が聞こえた。


 それは、キリンの声だった。


 ゆりあは驚いて振り向いた。

 そこには、じっとこちらを見つめるキリンの群れ。


「今、喋った……?」


 キリンたちは、いつもと同じように静かに立っていた。

 けれど——


「クック……聞こえた……?」


 オウムが、小さく囁く。


「うん……確かに、聞こえた……」


 ——危ない。


 そう言ったのは、間違いなくキリンたちだった。


 彼らは、何を知っているの?

 なぜ、境界の向こうに踏み込むことを警告するの?


 ゆりあは、改めて夜空を見上げた。


 黒い影のようなものは、裂け目の奥でじっとこちらを見ている。


「……"あれ"が、夜を削っているの?」


 ゆりあの問いかけに、キリンたちは静かに瞬きをした。

 その動きが、「そうだ」と言っているように見えた。


「クック……"何か"が、夜を食べてる……」


「食べてる……?」


 オウムの言葉に、ゆりあは息を呑んだ。


 夜が消えているのではない。

 "何か"が、夜を"喰らっている"のだ。



 ◆夜の向こう側が見える瞬間


 ゆりあは、裂け目の向こう側をじっと見つめた。


「……どうして、夜を喰らうの?」


 ——その答えが分かれば、"夜の異変"を止められるかもしれない。


 その時——


 ——ズズズ……ザザザ……


 裂け目の中の"何か"が、動いた。


 影の中から、まるで人の手のようなものがゆっくりと伸びてくる。


「……!!」


 ——そこにいたのは、"何か"ではなく、"誰か"だった。


「クック……夜の……"囁く者"……」


 オウムが、小さく震えながら囁く。


 ——囁く者?


「"あれ"が、夜の記憶を喰らってるの……?」


 ゆりあの問いに、オウムは何も言わなかった。


 ただ、裂け目の奥の影が、ゆっくりとゆりあの方へと手を伸ばしていた——。



 ◆ゆりあの決意:夜を取り戻すために


「……もし、"あれ"が夜の記憶を喰らってるのなら……」


 ゆりあは、ゆっくりと息を吸い込んだ。


「……止めなきゃ……」


 キリンたちは、変わらず静かに夜を見つめている。

 彼らは"見届ける者"。


 ——でも、ゆりあは違う。


「私は、夜を守る方法を探したい……!」


 オウムが、そっと羽を揺らす。


「クック……それが、できるの?」


「……分からない。でも、私が知るべきことがあるはず……!」


 夜を喰らう"囁く者"。

 境界の向こう側にいる"何か"。


 ——もし、彼らが夜を奪う存在なら、夜を取り戻すこともできるのではないか?


 ゆりあは、夜空を見つめた。


 次の夜、彼女は"囁く者"と対峙することになる——。



 ◆次回「夜の囁く者」——夜を喰らう存在と対峙する


 夜の裂け目が広がる。

 そして、その向こうから"囁く者"が現れる——。


 ゆりあは、夜を守るために、一歩踏み出す。


 To be continued…

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