キリン編 第4話:夜の境界線

 ◆静寂の中で消えていくもの


 夜空に広がる星々。

 その輝きが、少しずつ消えていく——。


 ゆりあは、じっと夜空を見つめていた。


 昨日までは気づかなかった。

 けれど、確実に星の数が減っている。


「クック……夜の境界……」


 オウムが、低く囁く。


「境界……?」


 ゆりあが問い返すと、オウムはゆっくりと羽を揺らした。


「クック……夜と、夜でないものの……境界……」


 夜と、夜でないもの?


「……昼のこと?」


 そう尋ねると、オウムは首を振った。


「クック……違う……夜は、夜のまま……でも……」


 オウムは、夜空を見つめるキリンたちの方へ視線を移した。


「……でも?」


 ゆりあも、彼らの目線の先をたどる。

 そこには、昨日までとは違う風景が広がっていた。


 ——夜空にぽっかりと空いた、闇の穴。



 ◆空に広がる闇の穴


「……あれは?」


 星が消えているだけじゃない。

 空の一部が、まるで"塗りつぶされたように"闇に飲まれていた。


「クック……境界……広がってる……」


 オウムの声は、どこか不安げだった。


「広がってる……?」


 昨日は、ただ星が消えたように思えた。

 けれど今は、明らかに"夜そのものが欠けている"。


「クック……"夜でなくなっている"……」


「……夜が、夜じゃなくなる?」


 ゆりあの胸がざわつく。


 もし、このまま夜が削られていくのなら——。


 "完全な闇"が広がるのではないか?


「……どうして、こんなことが起きてるの?」



 ◆夜を見届ける者たち


 キリンたちは、静かにその現象を見つめ続けていた。


「……君たちは、このことを知っていたの?」


 問いかけると、一匹のキリンがゆっくりと瞬きをした。

 それは、「そうだ」と言っているようだった。


「クック……キリンたちは、"夜の変化"をずっと見ている……」


「じゃあ、これは……前にも起きたことなの?」


 キリンは何も答えなかった。

 けれど、その佇まいが、何かを物語っている気がした。


 彼らは、"これを知っていた"。

 そして、"見届けることしかできない"のかもしれない。


「……でも、もしこのまま夜が削られ続けたら……?」


 ゆりあは、恐る恐る夜空を見上げた。

 "境界"は、ゆっくりと広がっている。


 このままでは、夜が、なくなってしまうかもしれない——。



 ◆夜が消えるとき、何が起こる?


「……夜が消えたら、何が残るの?」


 ゆりあの呟きに、オウムがふわりと羽を震わせた。


「クック……"夜の記憶"が、失われる……」


「夜の記憶……?」


「クック……"夜にしか見えないもの"が、見えなくなる……」


 夜にしか見えないもの。

 それが消えてしまったら、何が変わるのだろう?


 ——星の瞬き、月の光、静かな夜の風景。


 それらがなくなるだけなら、朝が来たのと同じことのはず。

 けれど、これは"普通の夜明け"ではない。


「クック……"夜"が夜でなくなれば……そこに"何か"が現れる……」


 ゆりあは、息を呑んだ。


 "何か"が、夜の代わりに現れる?


「……それって、どういうこと?」


 オウムは、静かに首を傾げた。


「クック……まだ、"見えてない"……」


 その瞬間——


 ザァァ……ザザァ……


 風が、ざわめいた。


 ゆりあの耳元で、かすかに"ささやき声"のようなものが聞こえた。


「……?」


 辺りを見回しても、誰もいない。

 けれど、確かに"何か"の気配があった。


 ——夜の欠けた空間の向こうから、"何か"がこちらを見ている。



 ◆夜の先に待つもの


「クック……"あれ"が、現れ始める……」


「"あれ"……?」


 ゆりあは、思わず息を呑んだ。

 夜空の欠けた部分をじっと見つめる。


 そこは、ただの闇ではなかった。

 何かが、ゆっくりとその隙間から"こちらを覗いている"気がした。


 ——夜が削れることで、何かが目を覚ます。


 それが何なのかは、まだ分からない。

 けれど、それは"夜の一部ではない何か"。


「……このままじゃ、夜が……」


 ゆりあは、キリンたちを振り返った。

 彼らは、変わらず夜空を見つめている。


 まるで、「ここから先は、私たちの領域ではない」とでも言うように——。


「……私、もっと知りたい」


 ——夜の消失が何を意味するのか。

 ——この闇の向こうにいる"何か"の正体。


 ゆりあは、キリンたちとともに、それを見届ける覚悟を決めた。



 ◆次回「夜の向こう側」——目覚めるもの


 夜の先に、何があるのか?

 削られた空の向こうで、"何か"が動き始める——。


 To be continued…

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