ウミガメ編 第3話:消えた海の道標

 ◆夜の波に漂うもの:見えない道標


 その夜も、ゆりあは水族館の水槽の前に立っていた。

 ウミガメは静かに泳ぎ、時折、水面に顔を出す。


「……ねぇ、君の故郷って、どこにあるの?」


 ゆりあはそっと問いかけた。

 ウミガメは、一瞬動きを止める。


 その瞬間——


 ——ザザァァ…… ザァァ……


 耳元で、昨日よりも強く波の音が響いた。


「クック……消えた道標……」


 オウムがぽつりと呟く。


「道標?」


「クック……帰る道……見えない……」


 ゆりあは、水槽を見つめた。

 ウミガメの記憶を辿れば、帰る道が分かるはず。

 けれど——


「……見えない?」


 ウミガメの記憶の中に、"故郷に帰る道"がない。

 それは、まるで誰かが消してしまったかのような感覚だった。



 ◆ウミガメの記憶:消えた海の道


 ——青い海を泳ぐウミガメ。

 ——はるか遠く、白い砂浜と緑の森が見える。

 ——けれど、その道は……見えなくなっていた。


「……本当に、道が消えてる……?」


 ゆりあの頭に、疑問が浮かぶ。

 海は広い。

 迷子になっただけなのか、それとも……。


「クック……風が変わった……」


 オウムが静かに呟く。


「風が……?」


 ゆりあは、水槽のウミガメをじっと見つめた。

 もしかしたら、"何か"が変わってしまったのかもしれない。


 ウミガメの故郷に続く道が、消えてしまった——。



 ◆波が伝える言葉:失われた記憶


「クック……探してる……?」


 オウムがウミガメに向かって問いかけるように鳴く。

 ウミガメは、一瞬ゆりあの方を見た。


 そして——


 ——ザァァ…… ザザァ……


 波の音と共に、新しい"記憶"が流れ込んできた。


 ——青い海に漂う、何かの影。

 ——それは、小さな島……?

 ——けれど、次の瞬間、それは霧の向こうに消えてしまう。


「……あの島は?」


 ゆりあは、水槽に手を添える。

 ウミガメが探しているのは、もしかしたら——


「君の故郷が……"霧に隠された"?」



 ---


 ◆失われた故郷:ウミガメが求めるもの


 ゆりあは、水槽のウミガメを見つめた。

 彼の目は、まるで何かを探しているようだった。


「クック……帰る場所……」


「……でも、その場所が、隠されてしまった?」


 波の音は、答えを教えてはくれない。

 けれど、確かに"何か"がある。


「君の故郷を探すには……"海の霧"を越えなきゃいけない?」


 ゆりあは、小さく息をのんだ。

 ウミガメが帰れない理由。

 それは、"道標を見失った"から。


 けれど、その原因はまだ分からない——。


 彼の帰るべき故郷は、本当にまだあるのか?



 ◆次回「霧の向こうに見えるもの」:消えた故郷の謎が深まる

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る