ウミガメ編 第2話:記憶の波に浮かぶもの

◆波が語るもの:過去からの囁き


その夜も、ゆりあは水族館を訪れた。

水槽の前に立ち、静かに目を閉じる。


——ザァァ…… ザザァ……


耳元で響く、波の音。

昨日よりも、もっと深く、もっとはっきりと——。


「クック……聞こえる……?」


オウムが小さく囁く。


「うん、昨日よりもはっきりと……」


ゆりあは、水槽に手を添えた。

冷たいガラス越しに、ウミガメのゆったりとした動きが伝わってくる。


その瞬間——


——遠い海の記憶が、ゆりあの頭に流れ込んできた。



◆ウミガメの記憶:生まれた場所と別れの瞬間


青く広がる海。

白い砂浜に、たくさんの小さな影——ウミガメの子どもたちが、生まれたばかりの足で海へと向かっている。


「ここが……君の生まれた場所……?」


波の音が優しく響く。

けれど、その穏やかさの奥に——


——ザザァァ……!


突然、大きな影が記憶の中に現れる。

何かに追われるように、ウミガメは必死に泳いでいる。


「……っ!?」


ゆりあは息を呑んだ。

ウミガメの記憶に流れ込んできたのは、別れの瞬間だった。


小さな頃、故郷の海を離れ、遠くへ旅立ったあの日——。

それ以来、二度と帰ることができなかった。


「……君は、帰りたくても帰れなかったんだね」


ゆりあの呟きに、ウミガメはゆっくりと瞬きをした。

その仕草が、まるで「そうだよ」と言っているように見えた。



◆波が運ぶメッセージ:導かれる先


「クック……帰る道……探す……?」


オウムの囁きが、ゆりあの胸に響く。


「……帰る道?」


ゆりあは、再び水槽を見つめた。

ウミガメが探しているのは、"帰る場所"。


でも、どうすれば……?


「もしかしたら、何か手がかりがあるかもしれない」


ゆりあは、ウミガメの記憶の続きを知るために、さらに耳を澄ませた。


——ザザァ…… ザァァ……


波の音が、何かを伝えようとしている。


それは、次の夜に続く——。



◆次回「消えた海の道標」:ウミガメが探すものとは?

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