◆夜だけの秘密：ミーアキャットとアライグマの約束

夜の動物園。

静かに流れる風の中で、ミーアキャットたちは巣穴のそばでじっと立ち上がっていた。

——夜の見張り。

そして、彼らが見つめる先には、一匹のアライグマがいた。

「……やっぱり、君たちは知ってる子なんだね」

ゆりあは、フェンス越しに囁いた。

ミーアキャットたちは、小さく鳴きながらアライグマを囲むように動く。

それは、警戒ではなく、"再会の挨拶" のように見えた。

「クック……夜だけ、会える……」

オウムの囁きが、夜の静寂に溶ける。

ゆりあは、アライグマの様子をじっと観察した。

昼間に見たアライグマたちとは違う。

——いや、違うのではない。"ここ" にいることが不思議なのだ。

「……君、どうやってここに来たの？」

ゆりあが問いかけると、アライグマはゆっくりと瞬きをした。

そして、すっと巣穴の奥へ向かって歩き出した。

その瞬間——

ミーアキャットたちが、まるで合図をするように、同じ方向を見つめた。

「……もしかして、この下？」

ゆりあは、フェンスの向こうに目を凝らした。

すると、巣穴の奥——地面の影に、小さな隙間があるのが見えた。

「クック……秘密の通路……」

オウムが、そっと羽を揺らす。

——秘密の通路。

それは、おそらく"人間たちが知らない抜け道"。

夜になると、アライグマはこの道を通って、ミーアキャットに会いに来るのだ。

「……君、昼間はアライグマエリアに戻ってるんだね」

ゆりあの言葉に、アライグマは小さく鼻を鳴らした。

——それはまるで、**「うん」**と答えるようだった。

「クック……夜の約束……」

オウムがそっと囁く。

ミーアキャットたちは、巣穴の前に並び、アライグマを見つめている。

その瞳には、"昔からのつながり" が映っているようだった。

「……君たちは、ずっと友達だったんだね」

ゆりあの声に、アライグマが一度だけミーアキャットに鼻をこすりつけた。

ミーアキャットたちも、小さく鳴き声を上げる。

それは——夜だけの秘密の再会。

夜の間だけ、また仲間になれる。

そんな小さな約束が、ここにはあった。

◆そっとしておくという選択：ゆりあの葛藤

ゆりあは、フェンスの奥をじっと見つめた。

"秘密の通路"——もし、これを園長に知らせたら？

きっと、アライグマはもうここに来れなくなる。

でも、それでいいのだろうか？

アライグマは、ゆりあの方を振り返った。

その瞳には——**「お願い、誰にも言わないでね」**と語りかけるような光が宿っていた。

ゆりあの心は揺れ動いた。

動物園のルールを守るべきか、それとも、彼らの秘密を守るべきか。

（……でも、もし私がアライグマの立場だったら？）

ゆりあは、自分自身に問いかけた。

（もし、大好きな友達に会えなくなったら？

もし、誰かに秘密の場所を壊されたら？）

きっと、とても悲しい気持ちになるだろう。

ゆりあは、アライグマの気持ちを想像した。

そして、ミーアキャットたちの気持ちも。

彼らは、昼間は別々の場所で暮らしている。

けれど、夜になると、こうして再会できる。

それは、彼らにとって、とても大切な時間なのだ。

◆優しい約束：ゆりあの決断

「……うん、わかった」

ゆりあは、そっと微笑んだ。

——誰にも言わない。

——この夜の秘密は、守る。

「クック……優しい約束……」

オウムが、静かに囁いた。

ゆりあがゆっくりとフェンスから離れると、ミーアキャットたちも安心したようにアライグマの方へ駆け寄った。

彼らの絆は、"夜だけのもの" かもしれない。

でも、それでもいい。

夜の間だけ、彼らはまた仲間になれるのだから。

「……また、夜に会おうね」

ゆりあがそっと呟くと、アライグマは一度だけ鼻を鳴らし、ミーアキャットたちと並んだ。

そして——

夜の静けさの中へと、ゆっくりと消えていった。

◆ゆりあの成長：動物たちとの心の交流

ゆりあは、ミーアキャットたちとアライグマの姿を見て、心が温かくなった。

（……私、少しずつ、動物たちの気持ちがわかるようになってきた）

以前は、動物たちの行動を見ていても、何を考えているのか、何を感じているのか、全くわからなかった。

けれど、最近は、彼らの表情や仕草から、ほんの少しだけ気持ちが伝わってくるようになった。

それは、まるで、動物たちと心を通わせているかのようだった。

「これも、オウムのおかげかな……」

ゆりあは、肩に乗るオウムを見つめた。

オウムは、ゆりあに様々なことを教えてくれる。

動物たちの言葉、夜の動物園の秘密、そして——動物たちの気持ち。

「ありがとう、オウム」

ゆりあがそう言うと、オウムは嬉しそうに羽を揺らした。

◆次回「高みから見下ろす者」——キリンが見つめる夜

ミーアキャットたちの "夜の再会"。

しかし、夜の動物園には、まだまだ秘密が眠っている。

次は、"高い場所からすべてを見ている" 存在。

夜のキリンたちは、何を見つめているのか？

To be continued…