第8章:キリン

キリン編 第1話:高みから見下ろすもの

 ◆月夜にそびえる影:キリンが見つめるもの


 夜の動物園。

 昼間とは違う静寂が広がり、月明かりが地面に長い影を落としていた。

 空気はひんやりとしていて、ゆるやかな風が木々を揺らしている。


 ゆりあは、キリンのエリアの前に立っていた。

 昼間は優雅に首を伸ばし、葉を食べていたキリンたち。

 しかし、夜になると彼らは静かにたたずみ、同じ方向を見つめていた。


「……なんで、みんな同じ方向を向いてるの?」


 ゆりあは、不思議そうにキリンたちを見つめた。

 まるで何かを探しているように、彼らはじっと夜空へと首を伸ばしていた。


「クック……見てる……」


 肩の上のオウムが、小さく囁く。


「夜空を……? それとも、星……?」


 ゆりあは、キリンたちの視線を追うように、そっと顔を上げた。

 そこには、無数の星々と、雲に隠れた月が浮かんでいた。


「……君たちは、何を見ているの?」


 ただ夜空を眺めているだけとは思えない。

 キリンたちは、"何か"を見つめ、"何か"を待っているように見えた。



 ◆夜の王:高みから見渡すもの


「クック……夜の王……」


 オウムが、ふわりと羽を揺らしながら囁く。


「夜の王?」


 ゆりあが聞き返すと、オウムは小さく首を傾げた。


「クック……高みから、すべてを見ている……」


 ——夜を見つめる者。

 ——高い場所から、すべてを知る者。


 それは、キリンのことを指しているのだろうか?


 ゆりあは、もう一度キリンたちを見た。

 彼らの瞳には、月明かりが映り込み、静かに揺れていた。

 けれど、その奥には"何か"がある。


 それは、ゆりあにはまだ見えない"何か"。


「……君たち、何を知っているの?」


 その瞬間——

 ゆりあの耳に、"声"のようなものが届いた。


 ——「……まだ、見えていないんだね……」


「えっ?」


 驚いて辺りを見回すが、そこには誰もいない。

 ただ、キリンたちが相変わらず夜空を見上げていた。


「クック……少しずつ……聞こえる……」


 オウムが、そっと囁く。

 ゆりあの心臓が高鳴る。

 今のは——キリンの声?



 ◆夜空に記されたもの:見えない星の導き


「……君たち、私に何か伝えようとしてるの?」


 ゆりあの問いかけに、キリンたちは一瞬だけ視線を動かした。

 その仕草は、まるで「気づいたか?」とでも言いたげだった。

 しかし、次の瞬間——再び夜空へと視線を戻す。


 ——まだ、見えていない。


 ゆりあの心に、その言葉が深く残った。

 キリンたちは、何かを見つめ続けている。

 それは、ゆりあにはまだ見えない"何か"。


「……私も、もっと知りたい」


 ゆりあは、次の夜もここへ来ることを決めた。

 キリンたちが何を見つめ、何を知っているのか——それを確かめるために。



 ◆動物たちの言葉:変わり始めたゆりあ


「……私、少しずつ、動物たちの言葉がわかるようになってきたのかもしれない」


 以前は、動物たちの行動を見ても、何を考えているのか分からなかった。

 けれど最近は、彼らの表情や仕草から、ほんの少しだけ気持ちが伝わってくるようになった。

 そして今——"声"まで聞こえた。


「これも、オウムのおかげかな……」


 ゆりあは、肩にとまるオウムをそっと撫でた。



 ◆次回「星々の語り手」——キリンが知る秘密


 キリンたちは、夜空に何を見ているのか?

 彼らが知る"夜の秘密"とは?


 ゆりあは、夜の動物園に隠された"星々の記憶"に触れようとする——。


 To be continued…

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