キリン編 第2話:星々の語り手
◆夜に刻まれた記憶:キリンが知るもの
夜の動物園は静まり返っていた。
昨日と同じ場所に立つゆりあは、キリンたちをじっと見つめていた。
——今日も、同じ方向を向いている。
月明かりに照らされながら、彼らは夜空をじっと見上げていた。
「……君たちは、何を見ているの?」
ゆりあは、そっと息を吸い込んだ。
空を見上げれば、無数の星々が瞬き、雲の切れ間から月が覗いている。
けれど——昨日と同じように、"何か"が足りない気がする。
「クック……星々の語り手……」
肩の上のオウムが、静かに囁く。
「語り手?」
ゆりあが聞き返すと、オウムはふわりと羽を揺らした。
「クック……高みから、夜を見つめる……すべてを知る者……」
——夜を知る者。
——高みから、すべてを見渡す存在。
「……キリンたちも、それを見ているの?」
オウムは小さく羽を揺らし、肯定するように目を細めた。
その時——
「……あなたは、まだ気づいていないんだね……」
ゆりあは、ハッと息を呑んだ。
また——あの声が聞こえた。
「クック……聞こえた?」
オウムが小さく囁く。
「うん……でも、誰の声?」
辺りを見回すが、誰もいない。
ただ、キリンたちが静かに佇み、夜空を見つめ続けている。
ゆりあは、もう一度彼らの瞳を見つめた。
——そこには、星々が映り込んでいた。
「……君たち、もしかして"何か"を待っているの?」
その瞬間——
キリンの一匹が、ゆっくりとゆりあに向かって歩き出した。
「……!」
驚くゆりあの前で、キリンはそっと立ち止まり、静かに瞬きをする。
「……君が、話してくれるの?」
ゆりあの胸が高鳴る。
次の瞬間——
——星が瞬いた。
夜空が、一瞬だけ眩しく輝く。
その光が、ゆりあの視界を包み込む。
——そして、ゆりあは"見た"。
◆星々に刻まれた記憶:キリンが知るもの
ゆりあの目の前に広がるのは、夜空とは違う光景。
それは、過去の記憶のように鮮やかな幻影だった。
——広大な草原。
——風が吹き抜け、月光が草を照らしている。
——そして、そこに佇むキリンの群れ。
「……これは、昔の景色?」
ゆりあの言葉に、オウムが小さく羽を震わせた。
「クック……キリンは、空を見て……覚えている……」
「覚えている……?」
ゆりあは、光の中で、ゆったりと首を動かすキリンたちを見た。
彼らは、まるで"夜空を読み解く"ように、星々を見つめていた。
「……星は、すべてを記憶している……」
——また、あの声が響いた。
「……誰?」
ゆりあは、声の方向を探す。
すると——
光の中に、一匹のキリンが現れた。
しかし、それは透き通るように淡く、夜空に溶ける影のようだった。
「……あなたは?」
ゆりあが尋ねると、そのキリンはゆっくりと瞬きをした。
「私は……ただ、空を見つめていたもの……」
——"夜の語り手"。
——"星々を読む者"。
それが、このキリンの正体なのか?
「クック……記憶は、空に刻まれる……」
オウムが囁いた。
「記憶……?」
ゆりあが、もう一度夜空を見上げる。
その瞬間——
星が、一つ流れた。
「……!」
ゆりあは息を呑んだ。
そして、ゆっくりとキリンの幻影に目を戻した。
「……あなたは、何を伝えようとしているの?」
すると——
「——夜が、消えかけている」
ゆりあの心臓が、大きく跳ねた。
「……夜が、消える?」
「気づいて……"夜"が、少しずつ薄れていることに」
幻影のキリンは、静かに目を閉じた。
「……私たちは、ただ見つめることしかできない……けれど……」
星の光が、ゆっくりと薄れていく。
「あなたは、知るべきだ」
その言葉とともに、ゆりあの視界が暗転した。
◆ゆりあの決意:夜の記憶を探して
「……!」
気がつくと、ゆりあは元の場所に立っていた。
目の前には、キリンが静かに佇んでいる。
「クック……聞こえた?」
オウムが小さく囁いた。
「うん……でも、あれは何だったの?」
ゆりあは、星空を見上げた。
——夜が、消えかけている?
「クック……"何か"が、起こってる……」
オウムの声は、いつになく静かだった。
「……私、もっと知りたい」
ゆりあは、キリンを見つめた。
彼は、ゆっくりと瞬きをし、再び夜空へと視線を戻した。
——キリンたちは、知っている。
——"夜の異変" を。
「私に、何かできるの?」
ゆりあの問いに、キリンはただ静かに立ち続けた。
◆次回「夜の囁き」——星々に隠された記憶
キリンたちが見つめる夜空。
そこに刻まれた"消えゆく記憶"とは?
ゆりあは、夜の異変に気づき始める——。
To be continued…
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