最終章:波に消えた島、ウミガメの記憶

ウミガメ編 第1話:波間に響く声

◆静かな旅人:波の記憶をたどって


夜の水族館は、静かに波の音を響かせていた。

大きな水槽の前に立つと、青い光がゆりあの頬を照らす。その奥で、ゆったりと泳ぐ一匹のウミガメがいた。

大きな甲羅を揺らしながら、ゆっくりと水の中を漂っている。


「……綺麗だね」


ゆりあはそっと呟いた。


「クック……静かな旅人……」


肩の上で、オウムが静かに囁く。


「旅人?」


ゆりあが問いかけると、オウムはふわりと羽を揺らした。


「クック……帰る場所……探してる……?」


「帰る場所?」


ゆりあは、もう一度ウミガメを見つめた。

彼はまるで何かを探すように、ゆっくりと水の中を進んでいる。


「君は、何を探しているの?」


フェンスに手を添えて、ゆりあはそっと問いかけた。

ウミガメは、ふと立ち止まったように見えた。

その瞬間——

ゆりあの耳に、かすかな"響き"が届いた。


——ザァァ…… ザザァ……


「……波の音?」


水族館の中にいるのに、耳元で確かに"海の音"が聞こえた。

まるで、海岸に立っているかのような——不思議な感覚。


「クック……聞こえた?」


「うん……でも、これって……?」


ゆりあは、水槽の中のウミガメをじっと見つめた。彼は、静かに海を漂うように、再び泳ぎ始めていた。

"何かを感じる"——けれど、まだ言葉にはならない。ウミガメの思いが、ほんの少しだけ届いた気がする。


「……もう少し、聞かせて」


ゆりあは、次の夜もここへ来ることを決めた。

ウミガメが探しているものを知るために——。


◆深まる謎:波の音とウミガメの記憶


ゆりあは、水槽の前で目を閉じた。

耳を澄ますと、再び波の音が聞こえてくる。


——ザァァ…… ザザァ……


それは、穏やかな波の音。

けれど、どこか懐かしい響きを含んでいるようにも聞こえた。


「クック……記憶……波に乗って……」


オウムの言葉が、ゆりあの頭の中で響く。


「記憶……? 波の音の中に、ウミガメの記憶があるの?」


ゆりあは、水槽の中のウミガメを見つめた。

彼は、ゆったりと泳ぎながら、時折、水面に顔を出す。

その姿は、まるで海を旅しているかのようだった。


「もしかしたら……ウミガメは、自分の記憶を辿っているのかもしれない」


ゆりあは、そう思った。



◆夜の記憶を繋ぐもの:ウミガメが見た景色


ゆりあは、再び水槽に手を触れた。

冷たいガラスの感触が、不思議な安心感をもたらす。

その瞬間——

ゆりあの目に、"映像"が流れ込んできた。


——青い海の中を、一匹のウミガメが泳いでいる。

——それは、今、ゆりあが見ているウミガメだった。

——彼は、生まれたばかりの頃から、ずっと海を旅してきた。

——様々な場所を訪れ、様々な景色を見てきた。

ゆりあは、ウミガメの記憶を共有しているようだった。


彼の見た景色、感じた感情、そして——


——ザァァ…… ザザァ……


波の音が、記憶の中で響く。

それは、穏やかな波の音。

けれど、どこか寂しさを帯びているようにも聞こえた。



◆ウミガメの願い:帰る場所を探して


ゆりあは、映像の中で見た景色を思い返した。

青い海、白い砂浜、そして、そこに生い茂る緑。

それは、ウミガメが生まれた場所。


彼にとっての"帰る場所"。


「……君は、故郷に帰りたかったんだね」


ゆりあは、水槽の中のウミガメにそっと話しかけた。ウミガメは、ゆっくりと瞬きをした。

その動きが、まるで「そうだ」と言っているように見えた。




◆次回「記憶の波に浮かぶもの」:新たな夜の始まり

ウミガメが探しているものは、故郷の記憶。

それは、彼にとって、とても大切なもの。


ゆりあは、ウミガメの願いを叶えるために、次の夜も水族館へ行くことを決めた。


To be continued…

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