タツノオトシゴ編 第3話:泡に映る夢

◆泡の王国の終わらない夢:光が導く未来へ


夜の水族館。

水槽の中では、タツノオトシゴたちが泡の間をふわふわと舞い続けていた。

その中心には、"もう一匹のタツノオトシゴ"がいた——けれど、それはどこか儚く、透き通るような姿だった。


「……君は、誰なの?」


ゆりあは、そっと水槽のガラスに手を触れた。

冷たい感触が指先に広がる。

その瞬間、"彼"はゆっくりと振り返った。

光の粒が舞い、泡がきらめく。


「クック……泡の王……」


オウムが静かに囁いた。


「泡の王……?」


ゆりあは、小さなタツノオトシゴを見つめる。

彼はまるで、水の中に"記憶"として漂っているようだった。


——ここにいるのに、いない存在。

——夜の水族館にだけ現れる影。


「……君は、待っていたの?」


タツノオトシゴは、ゆっくりと小さな尾を揺らす。

泡の間を漂いながら、まるで何かを伝えようとしているようだった。



◆泡に残された記憶:王国の秘密


ゆりあは、水槽の奥で光る泡に目を凝らした。

タツノオトシゴたちは、変わらず"泡の王"を囲むように泳いでいる。


「クック……王国の記憶……消えない……」


オウムの声が、ゆりあの心を震わせた。


「記憶……?」


泡の間で、光がふわりと弾ける。


すると——ゆりあの目の前に、"映像"が広がった。


——青く輝く水槽の中、無数のタツノオトシゴたちがいた。

——彼らは、仲間と共に泡を紡ぎ、水の中で生きていた。

——けれど、ある時、一匹のタツノオトシゴが姿を消した。


それが——"泡の王"。


「……この子は、ここにいたのに、いなくなった?」


ゆりあは、水槽の奥に佇むタツノオトシゴを見つめる。彼は、確かに"ここ"にいる。けれど、それは過去の記憶として漂う影。


「君は……ここに戻りたかったの?」


泡の王は、小さく尾を揺らした。

その仕草が、「うん」と言っているように見えた。



◆夜だけに残る願い:泡の王国の未来


タツノオトシゴたちは、再び泡を舞わせた。

それは、まるで光の輪を作るように、ゆりかごのように揺れる。


「クック……願い……叶える……?」


オウムの囁きに、ゆりあの胸が高鳴る。


「願い……?」


ゆりあは、"泡の王"を見つめた。

彼は、この場所に"戻りたい"と願っているのだろうか?

それとも——


「……君は、忘れたくなかったんだね」


泡の王は、小さく震えた。

そして、ふわりと光の中に溶けていく——



◆終わらない夢:泡の王の決意


泡が弾け、光が舞う。

その中で、泡の王は最後にゆりあの方を振り返った。その瞳は、どこか穏やかだった。


そして——

——泡の中へ、そっと消えていった。


「……!」


ゆりあは、思わず水槽に手を伸ばす。

けれど、そこにはただ静かな水が広がるだけ。

タツノオトシゴたちは、変わらず泡を舞わせていた。

彼らは、"泡の王"の願いを受け継ぎ、これからもこの王国を守っていくのだろう。



◆夜の記憶、そして次の約束へ


ゆりあは、そっと目を閉じた。

泡の王は、消えたわけじゃない。

彼の記憶は、この夜の水族館に、泡の王国に、確かに刻まれている。


「……君のこと、忘れないよ」


タツノオトシゴたちは、静かに泡の中を泳いでいた。それは、まるで「ありがとう」と言っているようだった。

オウムが、羽をふわりと揺らした。


「クック……夜の記憶……消えない……」


ゆりあは微笑んだ。

夜の約束は、まだ続いていく。


◆深まる絆:記憶を繋ぐ光


ゆりあは、水槽の中のタツノオトシゴたちを見つめた。

彼らは、昼間と変わらず、小さな体で泡の間を泳ぎ続けている。

しかし、その瞳には、どこか寂しさが宿っているように見えた。


「……君たちは、泡の王のことを、ずっと覚えているんだね」


ゆりあは、優しく呟いた。

その時、オウムが再び口を開いた。


「クック……記憶は……消えない……」


「……消えない?」


ゆりあは、オウムの言葉の意味を考えた。

記憶は、時間とともに薄れていくものだと思っていた。

しかし、オウムは「消えない」と言った。

それは、どういうことなのだろうか?


「もしかしたら……タツノオトシゴたちは、泡の王の記憶を、光の中に閉じ込めているのかもしれない」


ゆりあは、そう考えた。


「そして、その記憶は、夜になると、こうして再び姿を現す……」


ゆりあは、水槽の中に揺らめく光を見つめた。

それは、泡の王の記憶。

そして、それは、この水族館に隠された、ある秘密を解き明かす鍵となるのかもしれない。


◆ゆりあの決意:泡の王国の記憶を未来へ繋ぐ

ゆりあは、水槽の前に立ち、タツノオトシゴたちを見つめた。


「……君たち、本当にありがとう」


小さな体で、泡の王の記憶を守り続けてくれて。

その姿に、ゆりあは心を打たれた。


「私も、君たちと一緒に、この水族館の記憶を未来へ繋いでいく」


ゆりあは、そう決意した。

次の夜、ゆりあは、再びこの水族館へ来る。

そして、タツノオトシゴたちと共に、泡の王国の記憶を、未来へと語り継いでいく。




◆次回「小さな探検家」——新たな夜の物語が始まる

泡の王国の物語が終わった。

けれど、夜の動物園には、まだ解き明かされていない秘密がある。


ゆりあは、新たな夜の約束に導かれていく——。

To be continued…

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