ライオン編 第4話:夜の王の約束

◆夜の王の約束:消えた影の記憶


夜の風が静かに吹き抜ける。

ライオンエリアの奥で、雄ライオンがじっと佇んでいた。

その瞳は、まだ"何か"を見つめている。


「……やっぱり、君は何かを覚えてるんだね」


ゆりあはフェンス越しにそう囁く。

その言葉に応えるように、ライオンはゆっくりと瞬きをした。


「クック……王の約束……」


オウムの声が、どこからともなく降ってくる。


「王の……約束?」


ゆりあは目を見開く。

それは、ペンギンのときにも聞いた言葉。"夜の記憶は消えない"。


「約束って……誰と?」


ライオンは静かに立ち上がった。

ゆっくりと歩を進める。

そして——

彼は影の向こうへと顔を向けた。

消えた王の影:ゆりあが見たもの

ライオンの背後、夜の闇がわずかに揺らめく。

ゆりあには見えない"何か"が、そこにいるような気がした。


「……ここに、何かいるの?」


心臓が高鳴る。

その瞬間、ライオンが低く唸った。


「グルルル……」


警戒するような、けれどどこか懐かしむような声。

ゆりあは思わず息をのんだ。


「クック……夜の王は……影を覚えてる……」


オウムの言葉が、風に乗って響く。

ゆりあの目には何も見えない。

けれど、ライオンは確かに、そこに何かを"感じている"。


「……影って、何?」


ゆりあの問いに、オウムがそっと囁く。


「クック……昔……もう一匹いた……」


「……!」


ゆりあは息をのんだ。


「まさか……ライオンも、"消えた"の?」


ライオンの鋭い瞳が、まるで答えを語るように、静かに光る。



◆夜だけに残る約束:仲間を忘れないために


「……君は、仲間を探してるの?」


ライオンは、ゆっくりと瞬きをした。

その動きが、まるで「そうだ」と言っているように見えた。


「クック……王は、忘れない……」


オウムが静かに囁く。

ライオンは仲間を忘れず、今もその影を見つめている。

ペンギンと同じように、夜になるたびに"思い出す"のだ。


——夜の記憶は消えない。

——夜の約束は、決して途切れない。


「……約束って、何?」


ゆりあはもう一度、問いかけた。

そのとき、ライオンがそっと顔を上げた。

夜風が吹く。

草が揺れ、空気がふわりと流れる。

そして——

ゆりあは、見えた。

影の向こうに、もう一匹のライオンがいたことを。



◆ ライオンが語る"言葉"


ゆりあは、ライオンの瞳を見つめた。

これまでの動物たちとは違う。

ペンギンやオウムは、言葉を交わそうとした。

けれど——ライオンはただ"見つめる"だけだった。


「……私は、あなたの気持ちはわかる。でも……まだ"言葉"は聞こえない」


ゆりあは、そっとライオンの前にしゃがみ込んだ。


「私の声は、届いてる?」


ライオンはゆっくりと瞬きをする。


その瞬間——


「……約束……忘れない……」


——聞こえた。


それは、かすかな声だった。

でも確かに"言葉"として、ゆりあの心に届いた。


「……あなた、話せるんだね」


ライオンは静かにたてがみを揺らし、ゆっくりと目を閉じた。

まるで、"いつかまた会おう"とでも言いたげに。



◆ ゆりあの力が目覚める予兆


オウムが、ゆっくりと羽ばたきながら囁いた。


「クック……夜の記憶は、まだ続く……」


「……うん、きっと、もっと聞こえるようになる」

ゆりあはそう誓うように呟く。


——夜の王が、最初に言葉をくれた。

次は、どんな"夜の記憶"が待っているのだろう?



◆夜の記憶、そして未来へ:新たな物語の始まり

ゆりあは、目をこすった。

ほんの一瞬だった。

けれど確かに、ライオンの隣に、もう一匹の姿があった。

——それは、"過去の影"だったのかもしれない。


「……約束、守ってるんだね」


ゆりあが呟くと、ライオンは静かに座り込んだ。

夜の風が、彼のたてがみをそっと撫でる。

夜は、すべてを包み込む。

消えたものも、忘れたものも。

けれど、夜の記憶だけは、決して消えない。

ペンギンもそうだった。

そして、ライオンも。

ゆりあは、静かにフェンスから離れた。


「……ありがとう、教えてくれて」


ライオンは、一度だけ、ゆっくりと瞬きをした。

その目には、深い静けさが宿っていた。



◆次の夜へ——新たな謎:海の記憶


ライオン編は、これで終わる。

けれど、動物園の夜の秘密は、まだ続く。


次は、"海"の生き物たちの記憶へ。

ゆりあは、新たな夜の物語に心を躍らせた。

どんな"夜の約束"が待っているのだろうか。



◆次回「夜を漂う者たち」——新たな夜の物語が始まる。


To be continued…

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