ペンギン編 第4話:見つけたよ
◆夜明け前の静寂
夜の動物園は、しんと静まり返っていた。
空には雲ひとつなく、月がまるでスポットライトのように光を投げかけている。
ゆりあは、ペンギンエリアの前に立っていた。
昨夜と同じように、ペンギンたちは輪を作り、水面をじっと見つめている。
「キュルル……キュッ……」
切なく響く鳴き声。
——消えた仲間を探し続ける声。
「……君たちは、今夜も待っているんだね。」
ゆりあは、そっと水面を覗き込んだ。
月の光が静かに反射し、穏やかな波紋が広がる。
その瞬間——
"もう一羽のペンギン"の影が、そこにあった。
◆"夜の記憶"が微笑む
ゆりあは、そっと息をのんだ。
水面の中に映るペンギンの影。
それは、昨日と同じく、どこか儚げで——
けれど、今夜は違っていた。
——影が、微笑んでいたのだ。
「……!」
ペンギンたちは、小さく鳴いた。
「キュルル……キュッ……」
それは、まるで「見つけたよ」と言っているような声だった。
影は、ずっと待っていたのかもしれない。
仲間が、自分を見つけてくれるのを。
ゆりあは、ゆっくりと水面に手を伸ばした。
波紋が広がる。
そして——
影は、ゆっくりと空へ溶けるように消えていった。
◆ペンギンたちの夜
ペンギンたちは、静かに夜空を見上げた。
まるで、"影"がそこにいるかのように——。
「……君たちは、今日も仲間に会えたんだね。」
ゆりあの言葉に、ペンギンたちは小さく首を傾げた。
それは、まるで「うん」と言うように。
「クック……"夜の語り手"……」
オウムが、小さな声で囁く。
ゆりあは、そっと夜空を見上げた。
——"夜の記憶"は、消えない。
ペンギンたちが覚えている限り、
"消えた仲間"もまた、ここにいるのだろう。
「……これからも、夜が来るたびに、君たちはここで会うの?」
ペンギンたちは、ゆっくりと首を振った。
「キュルル……」
それは、まるで「もう大丈夫」と言っているように聞こえた。
——彼らは、もう迷わない。
夜が巡るたびに、心の中で再会できるから。
ゆりあは、静かに微笑んだ。
「……良かったね。」
◆夜は続いていく
空が、少しずつ白んでいく。
夜明けが近い。
「クック……夜が巡る……」
オウムが、静かに羽を揺らした。
ゆりあは、もう一度ペンギンたちを見つめた。
彼らは、輪を解き、それぞれの場所へと戻っていく。
まるで、今夜の出来事に満足したかのように——。
「……これが、夜の終わりなんだね。」
ゆりあの心に、じんわりと温かい何かが広がる。
——夜は、ただ暗いだけではない。
夜の記憶が、誰かを優しく包み込むこともある。
ペンギンたちは、もう探し続ける必要はない。
仲間は、いつでも心の中にいるのだから。
ゆりあは、そっと目を閉じた。
夜が明ける。
静かに、そして穏やかに——。
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