オレンジファーストキス

みかんの実

第1話 はじめての彼氏が出来ました





1ヶ月前に彼氏が出来た。


16年間生きてきて、はじめての彼氏。






陽向ひなた!今日、一緒に帰ろ!!」


「えっ……」



ホームルームが終わってチャイムが鳴ると同時に、隣のクラスの筈の朝陽あさひが教室に飛び込んできた。


まだ、担任の先生が教壇の上に立っているにも関わらず、私の鞄に荷物を詰め込むのを手伝うという横暴さ。



無理矢理、私の右手を引っ張って、クラスメート達に見守れながら教室を後にする。

いつもの事で見慣れた光景だけど、きっと皆、呆れてる。



「急げ、急げー!」


「ちょっと、ねぇ!急に何処行くの?」


少し子供っぽくてヤンチャな朝陽。

子供の頃は私の方が背が大きかったのに、中学であっという間に身長を抜かされた。


真っ直ぐで、優しくて、勉強は出来ないけど、私よりずっと運動神経はいい。

顔もわんこ系で一部の女子達から好意を持たれているようだ。



「ほら、早く走れよ!」


何をそんなに、突っ走っているのか。

でも、乱暴に急かすその声色は、低くて優しくて誰よりも安心する。


握られた手は、私よりずっと大きくて男の子の手をしていた。






すぐ後ろで、扉が閉まる音と発車合図のメロディーが鳴り響く。



「……っ、間に合った…」


「……な、なんなのよ、もう」


学校から駅まで走らされて、私たちは息を切らしながら電車に乗り込んだ。

肩で息をする朝陽の横に、並んで座る私も肩で息をしている。


苦しくて言葉が途切れて、酸素が足りなくて息が上手く出来ない。



「飲む?」


もう復活したのか、朝陽がヘラヘラと笑いながらペットボトルを鞄から取り出した。



「間接キスだけどー」


何を今更。

無理矢理ペットボトルを奪い、一気飲みして中を空にしてやった。



「ひでー、俺の分なくなっちゃったじゃん!」


「あ、んたが、急に走らせるから悪いんでしょ!?」


「ひゃはは、あんな入ってたのに飲み過ぎだろ!」


あんたは大きな声で笑い過ぎだって。

慌てて電車内を見渡せば、急いで走ってきた甲斐あってか、同じ制服姿の学生はいない。


乗車してる人も少なくて、きっとこの中にいる人達は私達の事を知らないんだろうな。



「もう、どこまで行くつもり?」


「誰も知らないところで、陽向ちゃんとデート♡」


朝陽はいつも突発的に行動する奴だ。

自分に真っ直ぐで嘘はつかない。他人には嘘つきまくりだけど。


いつも本当のことから逃げている私なんかより、ずっと、ずっと正直に生きている。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る