空の広告使用料
ちびまるフォイ
僕が見たかった空
企画会議は難航していた……。
「なにかいいアイデアは無いのか」
「どうすれば商品の良さがわかってもらえる」
「あと何ができるんだ……」
「失礼します!」
「な、なんだ君は。勝手に会議室に入るなんて!」
「失礼。私はこういうものです」
「広告会社スカイ・プロモーション……?」
「私どもであれば、あなたがたの商品を確実に広められますよ」
「はっ。世迷言を。こっちはTVCMもうって、
ネットで広告も出し、ステマもしていたのにダメだったんだ。
いまさらなにができるっていうんだ」
「ではお聞きしますが、空は?」
「空?」
「空にはなにかしましたか?」
「いや……何を言っているんだ君は?」
セールスマンは高層ビルの窓から空を指さした。
「あの広大なスクリーンを、まだ何も使ってないのですか?」
「「 そ、その手があったか!!! 」」
こうして会社は手を組み、空に広告を出すことを決めた。
「おい……あれ、なんだ?」
誰もが足を止めて空を見上げる。
青い空の一角には同じCMが繰り返し流されていた。
『こんな晴れた日には、〇〇ビール!
QRコードでおつまみもらえる!』
晴れた日には青空に広告が流され、
雲が空を覆うときには雲に映像を投影する。
『雨の日は家でゆっくり〇〇ビール。
QRコードでおつまみもらえる!』
これまで手つかずだった空に広告を出したことで
その宣伝効果はすさまじいものがあった。
「しゃ、社長! すごい勢いでビール売れてます!」
「QRコードからのアクセスもすごいです!
すでに多くのサーバーがアクセス負荷に耐えられてません!」
「空の広告……! なんてすごいんだ!!」
歩きスマホが法律で厳罰となったことも手伝い、
誰もが上を向いて歩くようになった。
それによりどうしても空に浮かぶ広告に目がとまる。
常に視界のはしっこを占領しつづける広告による
すりこみ効果は他の企業もほうってはおかなかった。
「う、うちも広告を出すぞ!」
「ええい! 看板なんか出してるばあいか!」
「これまで街の中心地のスクリーンに広告出してたのに!」
「これからはこっちだ! 空の取り合いだーー!」
空の有用性に気づいた企業たちはこぞって手を上げた。
ここから空の取り合いが激化する。
「太陽側の中心にはぜひうちの広告を!」
「ばかやろう! うちの広告がこっちだ!」
「月に近いポジションの一等地はうちが!!」
空の配置は企業間の戦争のような状態となり、
札束でひっぱたきあって場所取りをするようになった。
空は広告で埋め尽くされて、雲のときも広告で埋め尽くされる。
『本日は雨です。この雨は株式会社レインの提供でお送りしています』
もはや雲にある自分の企業の広告を出したくて、
意図的に天候を制御する広告も出てくるのがあたりまえになった。
天気予報は新スタイルへと切り替わる。
「それでは本日の天気です。
関東地方は株式会社△△により、雨の提供。
関西地方は株式会社XXにより、晴れの提供となります」
天気予報という言葉は死語となり「天気告知」が辞書に登録。
急な天気の切り替わりに困る人はいなくなったが、
どんな天気のときでもCMを見ないことはなかった。
会社の主戦場は空に切り替わった現在。
最初に空に広告を出していた会社は、
いつしか主力商品のビール事業からも撤退し瀬戸際まで追い詰められていた。
「しゃ、社長……」
「わかっている……。次の商品を出せなければうちは終わりだ」
「空広告を独占しているときは楽しかった……」
「あのときにもっと準備をしておけば、
こんなことにならなかったのだ」
空に目をつけて広告を出していたときは大成功。
浮かれてバブリーで大盤振る舞いを繰り返していた。
その結果、空の広告が取り合いとなり競合が増えたことで
商品力にとぼしい会社は空からも追い出されてしまった。
「適者生存ってことなんですかね……」
「いいやまだだ。まだうちの会社は終わりじゃない!」
「でもどうするんです? 何を売れば会社を立て直せるんです?」
「そこだよなぁ……」
ビールも売れなくなった。ほかの商品も売れない。
泣かず飛ばずの状態はずっと続いていた。
「社長、現代の消費者は何を求めているんでしょうか?」
「わからん……。いったい何が見たいんだろうな……」
窓から空を見上げる。
そこには広告で埋め尽くされていた空が広がっていた。
もう星なんか見えやしない。
社長はそのときにひらめいた。
「あるぞ……。わかったぞ。視聴者が本当に求めているものが!!」
「いったいどんな商品なんですか、社長!!」
「いいや。商品はもともとあったんだ!!」
「……はい?」
社員はまるでわからなかった。社長だけがわかっていた。
そして社長はそれを会社で作り上げて世に放った。
そのサービスは爆発的に広まりもう誰も欠かすことのできないモノとなる。
会社の起死回生の最主力商品となった。
そして今も。空には主力サービス広告が打ち出されている
『きれいな青空を見たくないですか?
空広告ブロッカーをいれて、きれいな空を見よう!』
空の広告使用料 ちびまるフォイ @firestorage
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