II
ビーチを探し求めて私らはずいぶん歩いたと思う。アキにまかせきりだったので、どこをどう歩いたのかはよく覚えていない。黒門市場、四天王寺。昼になり腹が減ってきた。少し歩くととても高いビルがあり、人混みをかき分けてそのビルの反対側に出た。着いたところは一軒のたこ焼き屋だった。
姉ちゃんが注文を取りに来た。黒いTシャツにジーパン、ストレートの髪を一か所でくくって、まるで千と千尋に出てくる仲居さんみたいだ。大阪の働く姉ちゃんは化粧っ気のない人が多い。私は姉ちゃんに見惚れた。
「ああゆうのが好みか」とアキ。
「うっせえ」
「ああいうのがいいのか、うん?」
「そのおじさん言葉ヤメロ」
「ヒョウ柄のおばさんは嫌いか?」
「嫌いもなにも、そんなのどこにもいねーじゃん」
「そうやな。一足遅かったか。きっともう絶滅したんじゃね? 私らヤマンバみたいに」
私らは絶滅危惧種か、そう言いかけてふと口をつぐんだ。実際そうなのかもしれない。ビーチを探して家出なんて、時代遅れなのかもしれない。クラスメートはみんなもうビーチのことなんかすっかり忘れてSNSでバエる自撮りなどを披露しながら軽々とたわむれているではないか。
「大阪にビーチはないな」とアキは突然、結論めいたことを言った。「ビーチはないけど、そのかわりに何か別のものがあるな。千と千尋的な、平安時代的な何かが。千と千尋、あれは大阪のことやったんやな」
「私ら完全にアウェイじゃね?」
「うん。気合張っていこう」
アキはその言葉とは裏腹にすっかりくつろいだ様子でWチーズのたこ焼きを割り箸でひょいとつかむと、口に放り込んだ。
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