第1章 第3話 8
怒っても悲しんでもいない、本当にトイレに入って出てきただけという様子でアサミが私たちに近づいてきた。ユリエは何もなかったみたいにすっくと立ちあがった。
「飲みもの買ってくるね」
本当に自動販売機に行くだけという様子でにこやかだった。ウソだと私はわかっている。たぶんアサミも。
「一緒に行こうよ」
だからアサミは止めようとしたけれど。
「ううん、一人で大丈夫だから」
そしてユリエは私に目くばせした。
「スマホのカメラの設定ができないってフタバが困ってたから手伝ってあげて。私はのどがかわいて死にそうなの、お願い」
無茶苦茶なことを言うなあと本当に困ったら、ユリエの目つきがキツくなった。
「ねえ、そうでしょ、フタバ」
「え、ああ、うん」
ただならぬ表情に気おされて、アサミは部屋に残ることを受けいれた。
と思ったら、
「なに今の? フタバがカメラの設定できないなんてウソでしょ」
ユリエが部屋をでてバタンとドアが閉まったとたんに毒づいていた。
「ウソじゃないよ」
私は三人で仲がよいままでいたかった。
「あっそ、でも私じゃできないから」
アサミはたたみの上に大の字に寝ころがって、大きなため息をついた。
「私、ユリエがどこに何しに行ったか知ってるよ」
私をドキッとさせるには十分だった。
「ゲンダに告りに行ったんでしょ。ユリエがゲンダのこと好きなの、ずっと前から気づいてた」
うっといううめき声がした。なんとアサミが泣いている。
「本当はさ、私も好きなんだよ、ゲンダのこと。たぶん、ユリエが好きになるずっと前から。ついゲンダにはひどいこと言っちゃったりするけど、本当はいつもそばにいたいんだよ」
背中をサーッといやな汗が流れていった。私たち三人はもうおしまいだ。もう私にはどうすることもできない。それでもなにか言わなきゃ言わなきゃと思って、また余計な本音が流れてしまう。
「アサミもなの? アサミもそうなの? 三人でまくら投げしたり語りあったりするより、ゲンダくんの方がいいの?」
「フタバぁ、そういう問題じゃないの。友達は友達、好きな人は好きな人で、どっちが大事とかじゃないんだからさあ、どっちも大事だよ! こまらせないで」
音を立てて鼻を大きくひとつ吸いこむと、アサミはばねみたいに跳ねあがった。
「ユリエを止めなきゃ」
そして私が言葉をつづける前にドタバタと部屋を出ていった。
一人残されて私はぼうぜんとしていた。私もゲンダくんのことが気になってたはずなのに、それはなかったことになった。というか、私自身どうでもよくなった。
私は一人きり。嵐となった二人が去って、なんだかまわりが涼しくなってきた。たたみにごろんと横になってしばらくしてからようやく寂しさの実感がわいてきた。
――なんだよ、友達より男をとるのかよ。友達ってなんなんだよ。私はあなたたちの一番大切な存在にはなれないのかよ。……さみしい。……さみしい。
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