第4話隣の後輩くん その2



「1年以上もデスクが隣だったのに、何で今まで気が付かなかったんだろう……」

「先輩も凄いですよね」

「え、何が?」

「すぐ騙されませんか?」

「え、て……。う、嘘なの?」


だって、夢みたいだけど。

他の子に言ったら、絶対に頭おかしいって、夢だって、笑われるだろうけど。


でも、こんなの目の前で何度も見せられたら、信じるしかないじゃない。

頭がこんがらがった状態で、甲斐くんを見上げれば。


「ま、先輩のそういう所、いいと思いますよ」


そう言って、少し困ったように眉を下げた彼の手が、私の頭をポンポンと軽く触れる。

なんかいつもスカしてるイメージで、生意気だなと思っていたけど。いや、生意気なんだけどね。

でも、想像以上に骨ばった大きな手に、ドキリと心臓が飛びはねた。


「え、あー、ありがとう」


なんだか急に照れ臭くなってくるな……。


「甲斐くんは、いーなぁ」


「何がですか?」


私が大きな溜め息を吐けば、甲斐くんは表情を変える事なく首を傾げた。


「私なんてさ、いっつもつまんないミスばっかりしてさ」

「……」

「甲斐くんは去年入ったばっかりで、年下なのにしっかりしてるしさ」

「え?」

「それに、こんな素敵な事も出来るんだもんー!!」


半分以上は愚痴だけど、雲1つ無い青空に叫ぶ様に吐き出せば、甲斐くんの目が一瞬だけ見開かれたのが分かった。


そして、彼は小さく息を吐いて私に視線を落とす。


「そんな事、言われたのはじめてなんですけど」

「え、嘘でしょ?」

「しっかりしてないですし」

「そんな事ないよ!いつも落ち着いてるなーって思ってたもん!」

「……先輩がそう思ってくれてたとか、はじめて知ったんですけど」


なんて、口にする甲斐くんの頬がほんのり赤く染まってるから、照れてるのかな?

なんだか、本当に今日の甲斐くんはいつもと違くて新鮮だな。




「じゃぁ、先輩に魔法をかけてあげますよ」


彼の低くて甘い声が辺りに響いて、

フワフワと優しくて穏やかな

スーッとする気持ちのいい匂いに包まれた。




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