第2話 隣の後輩くん


流行りのクールビズ。半袖のポロシャツからはやけに白い二の腕が伸びる。

長身で細目の体にちょっぴり猫背。明るく染められた髪は全体的に重めで、長めの前髪は目元を半分隠している。


彼は入社したときから、独特な雰囲気を持ち合わせていた。

年下なのに、どこか落ち着いているというか。まぁ、今時の周りに興味ありませんタイプな印象だった。

もっと言えば、いつも私を鼻で笑ってスカしている感じなんだけど。


「ね、ねぇ!どういう事?」


そんな甲斐くんは、私のデスクの隣に座って、早いタイピングをしながらパソコンに目を向けている。


「ねぇ、私の話聞いてる?」


彼のおかげで、会議前にセッティングする事が出来た。

結局、部長には"遅い!何やってんだ!!"とかなりお叱りを受けたけど。


「……先輩、仕事中ですよ」


両手で隣から思い切り肩を引っ張ったところで、やっと甲斐くんが私の方に顔を向けた。


「だって!気になって、全然集中出来ないし!」

「先輩のそういうところが」

「……え?」

「駄目なんですよね」


甲斐くんが呆れた様に小さな息を吐いてから、真っ直ぐ私にと視線をうつす。

"彼の目はこんな色してたっけ?"と、一瞬 どこまでも真っ黒な瞳に吸い込まれそうになって、はッと我にかえった。


「だ、だって!甲斐くんがなんか、まほ……」


"魔法みたいの"そう続けようとした言葉を遮ったのは──、


「七瀬くんは、時間に余裕があるみたいだねー!」


私と甲斐くんの、すぐ後ろに仁王立ちしていたうちの課の部長の声だった。


「部長!!!」

「さぞかし、この資料も完璧に時間内に終わらせてくれるんだろうね!」


そう言って口元を引きつかせるのは、決して見た目はスマートとは言えない中年太りの中年男性。

"ははは"なんて声にして笑っているけど、全然目が笑っていない。


「す、すみません!!」

「……すみません」


私の謝罪に続いて、甲斐くんもそう口にする。

かなり平謝りっぽいけど。

でも甲斐くんごめん。甲斐くんは止めてくれたのに、無理矢理声をかけたせいで巻き添えにしちゃって。


「七瀬くんは、頼んだコピーを風で飛ばすのも好きみたいだしねぇ」


ぐっ。確かに入社してすぐの頃、飛ばしちゃったけど、好きじゃないし。


「それに、コーヒーの豆もそのまま……」


だから、何年前の話よ。

続けられる部長の言葉に、この説教は長くなるんだろうと小さな息が漏れる。


その時、突然カーテンが大きく揺れて、窓から風が流れ込んできた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る