天国への階段

パソたん

天国への階段

祖母が亡くなって三日後、真夏の太陽が照りつける炎天の日に葬式が行われた。

祖母が亡くなった悲しみが焼かれてしまわないように、式場の中へ足を踏み入れる。式場の中は黒いスーツを着た大勢の人々で溢れかえっており、昔話や、世間話、祖母の話をしていた。

 五歳になる従兄弟が、式場の中を能天気に走り回っている。僕はあまり笑う余裕が無く、それをみて気楽でいいとすら思った。式が始まるまで、遺族専用の待合室に居ることにした。

 「久しぶりね」祖母の姉が私に声をかけた。「来てくれてありがとうね。妹もきっと天国で喜んでいるよ。」泣きながらそう言う祖母の姉は、生きるのを諦めた目をしていた。「いえ、当然です。ばあちゃん、喜んでくれるといいな。」僕はまだ、祖母の死を受け入れることができなかった。

 葬式がはじまり、お経を聞き流していた。何を言っているのかサッパリだ。これで本当に祖母は天国に行けるのかな。そんな不安を唾と一緒に飲み込んだ。程なくして終わり、私の姉と、五歳の従兄弟が祖母の大きな遺影の前で、感謝を大勢の前で披露した。「結婚式に来て欲しかった。水色のランドセルを買ってくれてありがとう。」姉は涙ぐみながらそう言った。五歳の従兄弟も立派に感謝を伝えていた。

 棺桶の中に花を入れる時間があった。私は、棺桶の中身を確認する事ができなかった。祖母の顔を見たら、僕はきっとどうにかなってしまう。みんなは亡くなった祖母が眠る顔を見て泣いている。泣きながら花を添えている。祖母の為に摘まれた花は、一緒に燃やされる。ごめんね、祖母の為に摘まれてくれてありがとう。

 棺桶は霊柩車に連れていかれ、火葬場に着く。そして祖母は、ゆっくりと暗闇の中へと収納された。僕はその時、生きる気力を失ってしまった。

 暑い夏だった。祖母は激しい炎の痛みと熱さに耐えて、祖母の為に摘まれた花と共に散っていった。

 祖母は骨となって僕の前に現れた。きっとその時の僕の目は、自分が濡れている事にも気付かずに死んでいく魚の目をしていただろう。祖母の軽い骨を拾う。なんでこんなことをさせるのだろう。天国って本当にあるんですか。

 僕は祖母の遺骨を持ち、霊柩車に乗る。母の姉が僕に言った。「重くない?」僕は答えた。「持っていたくないくらい重いよ。」

 車窓から見える質素な街並みは、僕の悲しみを知らずにただ流れていく。さようなら、僕のもっとも愛した人よ。もう手も繋げないね。手を繋ぐような、もうそんな歳では無いけれど、あの暖かい手にもう一度触れたい。

 天国への階段を、手を取り合って、そこに僕が居たならば。

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天国への階段 パソたん @kamigod_paso

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