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 實川さねかわ芽惟めい。幼い頃の私の唯一といっても過言ではない友達。親友。


 今でこそ平均並みの身長と体重をしているが、小学生の頃の私は一人っ子として両親の愛情をこれでもかと受け、食欲のおもむくままに好きなだけ貪っていたせいで、縦にも横にも大きな人間だった。


 その見た目の通り大きな器を持った人間であればよかったのだが、両親に甘やかされた私は何を勘違いしたのか、世界で一番偉い人間かのように振る舞い、他の子たちを見下すという傲慢な性格の子だった。逆らう人間は他人よりも大きな身体と力でねじ伏せ、男子ですら黙らせていた。


 それはそれは嫌な人間。その頃を思い出すだけで心臓がバクバクと忙しなく動き、記憶が抹消できるならと、頭を壁に打ち付けたくなるほどだ。


 そんな人間が他人から好かれるはずもなく。かといって避けようものなら一人っ子特有の構ってちゃんを発揮し、誰彼構わず近づいていってはわがままな行動をするという当たり屋のような人間。


 利口なクラスメイトはいつしか、身を守る術として避けるのでも立ち向かうのでもなく、言葉らしい言葉を発さずに周りでヘラヘラと笑っているのがこの人間の、いや獣の正しい扱いなのだと理解していた。


 誰にも愛されていない、まさに裸の王様。いや、王女様か。


 そんな中、唯一、私の名前を呼んで話しかけてくれていたのがメイだった。


 もしかしたら、最初は他の子たちと同じように身を守る術として私に取り入ろうとしたのかもしれない。


 それでも、私はメイの声が、姿が、仕草が、とても可愛らしく見えて、本当に愛される人間とはメイのような女の子のことを言うのだろうと羨ましかった。


 私はメイの話だけはしっかりと聞いていた。


『フミちゃん、そうやってすぐに暴力を振るっちゃ駄目だよ』

『う、うん……』

『みんなを怖がらせてたら、いつかフミちゃんの周りには誰も居なくなっちゃうよ』

『……それはヤダ』


 メイに諭されて、暴力や傲慢な性格も少しは鳴りを潜めた、と思う。メイの言う通りにしていれば、いつかはメイのように誰からも愛される可愛らしい女の子に自分もなれるのではないかと夢想していた。


 獣などには真似をしたくとも、到底できようはずもないのに。


『もう、フミちゃんは私が居ないと駄目なんだから』

『ごめん』

『フミちゃんてば、本当に馬鹿だよね。暴力ばっかり振るってたら、本当にみんな居なくなっちゃうよ? 一人ぼっちになっちゃうよ? それでも良いの?』

『……』

『でも、もし、みんな離れて行っちゃってフミちゃんが一人ぼっちになっちゃっても、私だけは側に居てあげるからね』

『……ありがとう』


 そんなメイが私は大好きで、少しだけ苦手だった。

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