心中ごっこしよう
薄暮 長閑
第1話 11/23 17:42
「
鈴のなるような声。というのは、こういうものを指すのだろう。六限目の授業を終えて、颯爽とクラスメイトが教室を空けていく中、私は
長く震える睫毛に、細い指。シワの少ない唇が動いた時、彼女はすぐ死を仄めかす。
聞くのはもうN回目だ。
どうやらまた、些細な何かが青葉ちゃんの希死念慮を刺激したらしい。
「お母さんね、昨日もお家に帰ってこなかったの。帰ると五百円玉と置手紙が合ってね。私、きっと必要のない存在なのよ。死んだって誰も悲しまないわ」
テレビでしか聞かないお姫様のような言葉遣いで、饒舌に言葉を紡いでいく。とうとう、伏せた睫毛が涙でキラキラと輝き始めて、私は静かにハンカチを手渡した。
「――ごめんなさい。ありがとう。こんな話聞いても、日向ちゃん困っちゃうものね」
「話して楽になるならたくさん話しなよ」
「うん。私、日向ちゃんしかお友達がいないから。嬉しい」
青葉ちゃんの言葉に、じんわりと心が温かくなる。彼女の細い手が、私の少しむちっとした手を包み込んだ。同じ人種なのに、肌の色ってこんなにも変わるんだなあ。と、他人事のように考えながら、私はその熱を受け入れる。
「そろそろ教室を出よう。先生を困らせちゃうわ」
「……そうだね」
空から刺す光が赤い。私たちの影は不自然な形に長く伸びていて、
「見て、日向ちゃん。変なかたちね」
と、青葉ちゃんが笑っていた。
青葉ちゃんが私に話しかけてくれたのはつい最近の一ヶ月前。
以前、仲良くしていたグループからハブられたのだと、彼女は言っていた。
「きっと、きっと私が何かしたんだわ。なにもせず、仲間はずれにするような子たちじゃないもの。日向ちゃんは、気にせず仲良くしてあげてね。クラスメイトがぎくしゃくするのは、辛いわ」
あの時も、今日みたいに涙に濡れた目をこちらに向けていた。対して親しくもない私に、どうして話をしてくれたのかは全く分からない。けれど、可愛らしい同級生が私を頼っている。という状況には満更でもなかった。
「酷いね、辛かったね」
在り来たりな言葉しか言えず、後悔したことをよく覚えている。しかし、それをきっかけに、私たちはどんどんと親しくなっていた。
青葉ちゃんを仲間外れにしたクラスメイトも遠巻きにこちらを見ているだけで、いやがらせらしき行動はない。時折、
という話を聞いたが、それもきっと嫉妬だったのだろう。だって、青葉ちゃんは可愛い。
笑ったときに目じりが下がるのも、口角がツンと尖がっているのも、綺麗すぎる声も全部。
私は青葉ちゃんのお友達。彼女が一人の時は、寄り添ってあげないと。
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