ダウナー字書きと毒舌読者

蟹味噌ガロン

ポエムは駄目らしい

 妄想が頭から溢れ出してくる。

 妄想が繋がって物語となる。


 それが私の毎日で、私の常識。


 いつから妄想が溢れ出したのかは、時期をはっきり言うのは少し難しいと思う。


 例えば、電車に乗っている時に窓の外を見て、空想の忍者をビルからビルへ走らせる程度、というのなら小学生の頃だし、ゲームや漫画のキャラクターでこんな展開が欲しいなぁなんて勝手に物語をつくったのは大体中学生の頃、ちゃんとしたオリジナル物語をつくったのは高校生の頃だった気がする。


 あーだこーだ脳内に出来上がった妄想は大抵はすぐに忘れてしまうのだが、ある程度は忘れずに記憶に残ってしまうのだ。実に厄介な事に。


 だから私は物語を文字で書くようになった。

 書けば忘れるから。


 妄想で溢れて頭がおかしくなる前にのろのろと文字にしてアウトプット、アウトプットの日々。


 文字として出す難しさを痛感しつつ、歩く牛さんも真っ青な遅さで書いていく。


 昔はWordで保存していただけの文章だったが、ネットで小説を投稿出来る事を知ってからはネットにアップしている。


 私の作品は他の投稿作品とは比べ物にならない閲覧数の低さだが、とてもありがたい事に読んでくれる人が一人いる。


 更になんと、投稿の度にコメントまでくれるのである。


 今日もサイトにログインするとコメントの新着通知を見つけ、クリックする。


 そこに書かれていたコメントは……


『ポエムは辞めろ。流石に痛すぎる』


 ……?


 はて、ポエムとは何の事なのだろうか。


 いつも投稿してすぐに一言だけコメントをくれる読者様なのだ。


 なので恐らく指摘の対象は直前に投稿した物語なのだろう。


 投稿した物語にポエムは無いはずだけれども。


 私は投稿した物語を上から下まで読み返す。何度か読み返すが、指摘のポエムとやらが見当たらない。探している時ほど探し物は見つからないものだなぁ。増え続ける妄想でぐちゃぐちゃの脳内をひっくり返して思い出そうと試みる。うーん。


 やはり、何度見てもポエムは無いし、書いた覚えも無い。


 探すのを半分諦めつつ、ぼーっといつもの見直しをするように文章を眺めてみた。懐かしいなぁ。段々と書いていた時の楽しさや苦しさなんかが頭に浮かんでくる。三日前に書いたからそこそこ覚えてる。


 この文章は一行の文字数を整えたのだった。

 片付けが死ぬほど苦手な私が文字を整理したのだ。なんか整理できそうだと思ったからやってみた。


 そして出来上がった。

 チーズケーキ文章が。


 チーズケーキ文章、つまり上記に記載した二行の文字のブロックの事だ。ちなみにチーズケーキ文章は私が勝手にそう言っているだけだ。パッと見た目がチーズケーキの棒に見えて美味しそうなのでそう名付けた。美味しそうだから投稿した物語の中に幾つか作ったのだ。一行の文字数を揃えた数行のブロックをだ。無論、文章の内容は異なっているが。


 そしてポエムらしき文章を二行揃えたチーズケーキもある。なんせそれぞれの行の頭に、私が、と、私は、が上と下に揃っているのだ。


 きっと、恐らく、確実に、この箇所がポエムに違いない。


 書いている内容は……私はポエムが何かは意識して読んだ事も書いたことも無いのでわからない。が、何となく指摘がこの部分だと、私の野生の勘が働いた。私は名探偵にジョブチェンジ出来るのではなかろうか。


 推理の裏付けをする為にポエムポエム言われている有名作を調べてみよう。とりあえずググる。……何となく似てないからやはりポエムでは無いのだうか、心配になってきた。


 いいや、私の勘はここだと言っている。

 女の勘はなんとかって奴だ。

 自信を持つのだ、私よ。


 きっとこれは、本質を理解することが必要なんだ。


 私には有名作のポエムを再びじっくりと見てみる。私にはなんだか良く理解出来ない。


……そうか、つまりはそういう事なのだ。


 読んで分からない、分かりにくい文章だ。


 私の敗因は読者に物語を理解させるよりもチーズケーキを作る事を意識したことで読んだとて分かりにくい文章が出来上がってしまっている。壁に阻まれていた思考が繋がる感覚と、チーズケーキ文章を読ませてしまった申し訳なさがいつもの妄想を頭から押し流していく。やっちまった。


 ポエムという単語をググってみたらやはり、詩的だが中身の無い文章や発言を揶揄する事なのだという。


 まさしく、私のチーズケーキ文章か。物語にチーズケーキはまるで何ひとつ関係ないのだから、読者にチーズケーキは見えないのである。

 なんだかある意味でスッキリした。学生の頃、プールの次の授業で窓の外の飛行機雲をぼんやり眺めている気分だ。疲労でぼんやりする。チョコ食べよ。甘くて美味しい。疲れた体にぴったりだ。


 私の脳内ではチーズケーキに見える文章ぼんやりと眺めながら、代わりにチョコを食べる虚しさよ。言葉にし難い。にしてもこのチーズケーキ文章は文字が焦げ目に見えて美味しそうだなぁ。そりゃあ……。


 そりゃあ、毒舌読者さんにはチーズケーキがどうとかは何も言っていないのだから、そりゃあポエムにしか見えないよなぁ。


 毒舌読者様コメントをさらに強火ストレートにするなら……『文字数揃えて、見た目だけでチーズケーキだと? 何考えてるんだ阿保極まりない事をウェブで全世界に晒すな、阿保』と言われてしまうのだろうか。


 うぅむ、やたらと毒舌読者様の解像度が上がってしまった。かなりの長いこと、私は毒舌読者様とのやり取りしかしていないのだから自然とそうなるのもこの世の理だ。会ったこともない人物の言いそうな台詞を想像し、更に盛ってしまうなんて……今度こっそり登場人物に出すのも楽しそうだなぁ。ネタ帳に書いとこ。


 あ、また思考が脱線してしまった。

 ポエムは確かに存在して、それを読ませてしまったのは事実だ。

 コメントに早く返事しないと。


 私は感謝の意味を込め、読者様のコメントにいいねを返す。


 でも、いいねだけだと寂しいので、時間をかけて考えに考え抜いた返事を送信する。


『ありがとうございます。後に』


 よし、送信完了だ。


 コメントの返事をした達成感を感じつつ、私は再び作品を書く。書き続ける。溢れる妄想を形にする。


 そしてまた次の物語をウェブで公開……した直後に気づいた。


 私の返信コメント。後にってなんだ、後にって。


 後で投稿内容を編集するから『後で』って書いたが……。


 私のコメント返信の内容が言葉足らず過ぎないか?

 ポエムが痛いと言われて、返事が『後に』って何?


 まるで、『お前、後で体育館裏に来いよ』と、ヤンキーに呼び出されてタコ殴りにされる展開……いや、告白の呼び出しにもとれるかもしれない。まるで物語のテンプレ……あぁ、ダメだダメだ。また妄想で思考が脱線した。


 コメント送信してから時間は経っている。今更取り繕ったところで印象は良くないような気がする。やってしまったなぁ。すごく凹む。


 すると、丁度コメントが来た通知音がした。


 もしかして、もしかすると、これは言葉足らず返事のクレーム、だったり?


 あぁ、私はこれから言葉でボコボコにされてしまうのだ。いや、この場合私が呼び出した側になるのだろうか?


 恐る恐るコメントを確認する。あんまり強火のクレームだと経験上は半月ほど寝込んでしまうので瞼を半分閉じて画面を見る。


 そこに書かれているのは……


『改行入れろ。目が滑る』


 …………はて、改行?


 改行は入れているはずだけれど。


 瞼は全開。さっきの不安は綿菓子みたいに溶けてった。


 私は疑問と好奇心を動力に投稿サイトをクリック。ついさっき投稿した文字の羅列を眺め回した。


 うぅむ、次はどういう意図なのか。

 私は再び思考の海に沈みこんだ。

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ダウナー字書きと毒舌読者 蟹味噌ガロン @kanimiso-gallon

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