第2話

「グギャギャッ!」


 俺は逃げていた。

 体の痛みを抑えて、後ろから迫り来る悪魔から逃げていた。


 え? 嘘でしょ? 俺、ゴブリン(?)にも負けるの? 強い種族なんじゃないの? 弱いの? 俺。


 そんなことを思いつつ、後ろを振り向く。

 すると、背丈の差からか、ゴブリンとはかなり距離を離せていた。

 

「はぁ、はぁ、はぁ……」


 取り敢えず、逃げ切れそうではある。

 ただ、問題はこの洞窟の出口があっち方向だった場合だ。

 



「よ、よし……とり、あえず、逃げることには成功した、な」


 息を整えつつ、俺は呟くようにそう言った。

 ……体が痛てぇ。あのクソ野郎、ボコスカと殴りやがって。

 ……そう、殴られたんだよな。

 あれだけ殴られても、痛いってだけで済んでるってことは、多分だけど、体が元より強くなってることは間違いないんだよ。もしも日本にいた頃の俺だったら、マジで死んでてもおかしくないくらいにボコされたし。

 ……ただ、それでも、普通に負けたんだよな。


 そんなことを思いつつ、もう一度ゴブリンがいた方向を確認してから、地面に腰を下ろした。

 逃げてる途中にも思ったことなんだが、俺って弱い、のか?

 ……吸血鬼なんじゃないのか? まさかとは思うが、この世界の吸血鬼って弱い、のか?

 

 ……多分だけど、ここは異世界なんだよ。俺が吸血鬼になってる時点でほぼ確定だと思うけど。

 今更だが、ステータスとか、あるのかな。


 名前:無し

 種族:真祖の吸血鬼

 スキル:吸血、再生、眷属化、血液操作、不老

 加護:邪神の加護


 そう思った瞬間、脳内にそんなものが現れた。

 ……取り敢えず、一番下のものは見なかったことにするとして、やっぱり俺は吸血鬼ってことで良かったんだな。……真祖とか書いてあるけど、まぁ、そうか。俺は誰かに血を吸われたりして吸血鬼になった覚えは無いしな。

 てか、俺は頑丈になった訳じゃなくて、スキルの再生ってやつのおかげであのゴブリンにあれだけボコボコにされても、死ななかったのかな。

 ……そう言われてみれば、打撲傷とかが治っていってる気がするわ。


 ……うん。なんか、弱くね?

 身体能力も微妙だったし、スキルも微妙だぞ!?

 正直、俺は吸血とかしたくねぇもん! なんか、ばっちいし。


 そこまで考えたところで、いい匂いが漂ってくると同時に、ゴブリンがいた方向とは反対側から何か人影が見えてきた。

 や、やばい! またゴブリンか!?


「ッ、な、なんで、こんな所に、魔族が……」


 そして、現れたのは血だらけの20歳くらいの男だった。

 そんな男は俺を見るなり、怯えたような、絶望したような声を上げ、呟くようにそう言っていた。


 その瞬間、俺はあの声が言っていたことを思い出した。

 吸血鬼に転生したいって俺が言った後、確かあの声は人間種? ってのをいっぱい殺せば強くなれる、みたいなことを言っていたはずだ。

 そう、つまり、多分だけど、俺は目の前にいる人間? を殺せば強くなれるんだと思う。


 …………んなこと出来るわけ無いだろ!?!?!?

 そんなことしたら、犯罪者じゃん! 

 ……いや、もう吸血鬼な時点でって気がするけど、それでも、殺すのは……やっぱり、ダメ、だろ。

 そんなことをしたら、俺は完全に人類の敵ってことになってしまうし、討伐隊でも組まれたら多分普通に終わる。俺は死にたくなんて無いんだよ!

 

「うわぁぁぁぁぁ!」


 そんなことを思っていると、絶叫を上げながら男は持っていた剣で斬りかかってきた。


「お、おい! いきなり何するんだよ!」


「あぁぁぁぁぁ!」


 俺の言葉を無視して、男は狂ったように剣を振り回してくる。

 ……え? 何これ。俺の言葉、通じてないのか?

 つか、やばい! このままじゃ殺されるって!


 そう思い、後ろに逃げようとしたところで、俺は思った。

 そういえば、あっちにはゴブリンがいるんだった、と。


「ちょ、ま、マジで待てって! お、俺は敵じゃない! 悪いやつでもないぞ!? つか、お前! そんか傷だらけの状態で動き回ったら、死ぬぞ!?」


 俺の言葉に男は本当に聞く耳を持たず、剣を止めることなく振り回してくる。


「ッ」

 

 そしてとうとう、俺の腕に剣が当たった。

 痛ってぇ……! さっきゴブリンにボコされた時よりもずっと痛てぇ!


 痛みに反射するように、俺は傷を付けられた方とは反対側の手で男を振り払った。

 ゴブリンにも通用しなかった腕力だし、弱いことは間違いない。

 ただ、男は最初から傷だらけだった。


「くっ」


 それも相まってか、そんな声を上げ、男は限界が訪れたのか、その場に剣を落としながら、前方に倒れ込んだ。

 そして、余裕が出てきた俺は理解した。

 さっきからずっと鼻を漂っていたこのいい匂いはこいつの血の匂いだったんだ、と。

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