【3】 自己紹介をしよう!
一人目:
デコと眼鏡が光っている委員長。身長は低く全体的に線も細いが気は強めで、よくクラスメイトの風紀について口煩く注意し、鬱陶しがられていた。
勿論僕はキャラに合わない事をしてクラスで浮くのが怖いから、注意されるような事は何一つしてこなかったが……そのせいで彼女とはほとんど喋ったことが無い。
先程までエルフに変わってしまった先生に、震える声で質問してたが、既に立ち直っているようだ。先生があまり気にしていないようだったから、深く考えない事にしたのだろう。
「私は正親正道と言います。学校に居た頃は2年C組の学級委員長をしていました。
「今の職業は……錬金術師です。武器は無しで、錬金に必要な本と小さな釜を貰いました。ただ、そんな非科学的な職種についての知識なんて、私はまったく持っていないので、正直こんなのできるワケないと思うのですが……
「こういった緊急時に職業選択の自由とまでは言いませんが、せめて三択程度の選択肢は欲しかったですね。
「と、言いますか、そもそも選択肢というのならこの異世界、転移? 自体に拒否権を設けておくべきでしょう。
「能力を秘めた人々を呼び出したとは言っていましたが、能力がある者を強制的に労働に従事させるのは明らかに人権侵害です。
「事情があるのは理解しますけれども、あまりに横暴過ぎます。
「ですので私は魔王討伐その物を承認しておらず、他のみんなと組まずにここから出発しないで、今までなんとか天使の方々と交渉しようとしていました。
「……まぁ、結局どんなに声をかけても反応は無く、広場から出ようとしても別の道から広場に帰ってきてしまい、意味は無かったんですけれど。
「というか、他の人にもその旨を説明し残って交渉する方がいいと説得したのですが、鬱陶しそうな顔されてあしらわれました。
「おかしくありませんか? どうしてみんなそんなにノリノリなんでしょうか? いい歳したパートの人にまで『お嬢ちゃん、これは人生の起爆点よ。今までのつまらない私を捨てて、何もかもを手に入れるの! 誰からも愛されないあそこから、私は自由になったのよ!』って諭されたんですが。諭すというか、半分くらい他人に聞かせるべきではない自分語りだったですし。
「……とりあえず、以上です。よろしくお願いします」
ちなみに僕は能力のある云々は初耳だった。
多分僕の担当の天使さんも、職業ヒモの奴に「あなたは能力が有るから呼び出されたんですよ!」とは言いにくかったのだろう。
いらねー気遣いありがとな!
二人目:
この人は見た事が無い人だった。
多分、同じ学年ではないと思うんだけれど……と思ったらやっぱり3年の先輩らしい。長過ぎる前髪が表情をほとんど隠しており、僅かに口元だけが髪の間から覗いている。
ほっそりとした身体の長身……女性の中には背の高さをコンプレックスにしている人も居るそうだし、悪し様に言うつもりは無いけれど、かなり背の高い方だろう。恐らく、190に迫るサイズだ。バスケ部かバレー部に即スカウトされそうな恵体、というには少し痩せ過ぎているかもしれない。
本人もやはり高身長を気にしているのか、わざとやっているのだろうと思わせる程の猫背でもある。それもあわさってちょっと……いや、正直に言って、かなり根暗なヤバい人に見える。
けれど、僕はそんな事で人を判断しない。
なぜなら僕も背が低いし筋肉も無いし顔も無特徴でイケメンとは口が裂けても言えないし、むしろ口が裂けた方がある程度特徴的で良いんでないかとすら常々思っているからだ。つまりルサンチマンの塊仲間だからだ。同士として握手して肩を組み、我が道を共に歩いていきたいレベル。でも肩組んだら僕持ち上がっちゃうなこれ、チビは悲しいなオイ。
おっと、黒井さんを勝手にルサンチマンの塊仲間認定してしまったのは人として相当にアスホールなので、そこは反省しておこう。
で、なんで委員長を差し置いて黒井さんについてだけこんなに語っているかというと。
「く、くろっ……黒、井……目ぐ…ろ、です………暗殺者に、なりました……武器は、短剣、です……
「はなし、話しかけらなくて……残りました、すいません……あっ、三年……です
「……よろしくお願っ……ます」
黒井さんがこれだけしか喋らなかったからである。
超気持ち分かる、好き。
三人目:
この人も知らない人……だと思う。いや、顔は知っているかもしれない。なんか、なんかの折に見た。でもそれってもう知らない判定じゃない?
背は僕より少し小さいくらい。さっきからボブカットの髪をそわそわと揺らして、辺りを見回している。特定の誰かを探しているといった感じではなくて、むしろ何かないかを探している様子だ。
気を張っているというより、気を散らしている。
言ってしまえば、落ち着きが無いのだ。
「自分は1年D組鹿伏鹿野っす、あ、です!
「職業は砲術士っす!武器はなんか、筒?
「いや、最初は一年のみんなと組もうとしたんすけど、なんかみんな忙しいとかこの後塾あるとか膝の皿割れたとか、用事あるからって断られちゃったんすよねぇ
「で、何組かに話しかけて、その度運悪く都合付かないみたいな結果になってる内に、気付けばもうこんだけしか残ってなくて
「いやでも良かったっすよ! まだ組んでない人が残ってて! それに先生も居るし! あ、です!
「よーろしくお願いしゃす! します! あ、です!」
まぁ、確かに、なんというか、そういう事ねって感じだ。
でも異世界に来てまでハブるのは徹底し過ぎでしょ、むしろ他の1年生は初志を貫徹させる胆力があるなと感心しちゃうレベル。
……しかし正直な感想を言うと、みんなが示し合わせてハブってる訳ではなく、どちらかといえば全員「コイツ空気の読解力で赤点取ってもう留年確定してね? 今仲良くなると後で後輩になった時死ぬ程気まずいじゃん」と各々思って、各自自分の判断で断ってそうだよね。
彼女は、その、そう、素直過ぎるのだ。
まぁ、でも、素直は美徳だからね……なお学校では評価されない項目な模様。
四人目:聖生 聖
は、「私は既に自己紹介しましたよ?」という顔をして僕を見ている。
みんなもそれに習って視線をこちらへと向けた。
前へ習えの日本社会がよォ! 僕はそういうの良くないと思いますよ! もっと自主性を持て! 誰か今すぐ我を通して「早く行こう」っつってこのまま話を有耶無耶にするんだー!
五人目:青海 蒼
この人も知らない人ですね。
みんながみんな自分の事を知ってると思うなよ。
「……ぇ、えー……あー、その、青海蒼です。
「えっと、自分も正親さんと同じく2年C組で、聖生先生には現代文を教えてもらってまして……あ、えー、いや、本当に、その、こんな所に来ても先生と委員長の姿が見えて、その、そうですね……なんていうか、正直……凄くホッとしてまいました。
「それで……そう、他の人とパーティーが組めていなかったのは……そう、だから……そう、そうなんですよ、気が動転してしまって……誰にも話しかけられなくて、何もできず慌てていたら、いつの間にやらこんな事になってたんです。
「そのー、だから……うん、はい……あ、みなさんのお役に立てるかはわかりませんが、精一杯やらせてもらいますので、どうかよろしくお願いします」
「お願いしゃーす先輩!」
「あ、はい、どうも、お願いします」
知らなかったのか……? コミュ障は滑らかに喋れない……!
ホントに勘弁してくだちい。
しどろもどろのどろのどろのどもって感じだ。死にたい。
というか、職業を伏せる事を考えると何を言えばいいかわならないというのもある。流石に普段からここまでしどろもどってはいない。
後、鹿伏さんはマジで微塵も悪気無いんだろうけど、そういうのが一番ダメージ食らうんだからね!
「……終わりですか?」
委員長が怪訝そうな顔をして尋ねてくる。
お、なんだ? まだこの僕に何か喋らせたいのか? やるか? やる気なら受けて立つぞ僕は、ん? 心の中のシャドーボクシングは既に13ラウンド目だぞ?
「うん、ありがとうね青海君。それじゃ、あなたは何の職業って言われたの?」
まーーーーーた童貞を殺すエルフが、僕だけを殺す言葉を笑顔で吐いてきたぞ。
言い忘れたわけじゃなく言いたくなくて場から除外したんだよその話題はァ!
童貞を殺すだけで僕を殺す十分条件満たされてるから、完全にオーバーキルですよ先生!
僕が言いあぐね言葉を探し口ごもり目を単独遠泳地球一周の旅させていると、焦れたのか委員長が「ちょっと、どうしたんです?」なんて少しキツめな語調で詰問してきて、鹿伏さんはもう正直あんま僕に興味なくて足元の白いレンガをローファーでほじくりほじりくして、黒井さんは何か察してくれたのか静かにじっと待ってくれて、いや違うねこれ黒井さん単に喋らないだけだね、分かるよ、仲間だもん。とりあえずそんなこんなで僕はもう。
「えー、あー、そのー、僕はー、そうですね、なんていうかなー、えー」
「ハッキリ言ってください!」
「ハイ! 僕はヒモです!」
なんだこの宣言。
ちなみに武器はもらえませんでした。
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