伝説の武器は勇者の死骸で出来ている

横月へたの

第1話 プロローグ

神秘と魔法が息づくベネテラ大陸。


始め、そこには五つの種族がありました。


魔法を使うことのできる唯一の生き物、エルフ。


豊かな知識と金属加工技術を持つ小柄な生き物、ドワーフ。


巨大にして五種族、屈指の力を持つ生き物、ギガース。


戦いをこよなく愛する生き物、ウェアウルフ。


そして、何の力も持たない生き物、ヒト。


彼らは資源を求め、互いの領土で争い合いました。


通称「種族間戦争」と呼ばれる戦いは、長く、長く、長く、続き、豊穣な大地を血で汚しました。


戦いが終わる日はまるで見えません。いつの日か、誰もが安寧を忘れてしまいました。


一方、この惨状を目にした天界の女神はこの戦いに心を痛め、七度、涙を流したと言います。


その涙は地上に滴り落ち、その雫から七匹の邪悪な怪物が生まれました。


それは、霧に潜む大蛙……無尽の人食いロマ


それは、滅びの歌を奏でる怪鳥……混沌たるサン・ルー


それは、救済を願う無垢なる悪意……洗心フォーセル


それは、やがて大陸を呑みこむ終末の蠍……熔解エッセ・フォルン


それは、妖艶なる魔女……色欲のハーティ


それは、偽りにして虚無……姿なきアランカリヤ


それは、始まりの悪魔……理のエンダ


七災魔。ベネテラを破滅に導く七匹の怪物たちは、女神に代わって愚かな生き物たちを滅ぼそうとしました。大地から愚鈍な生き物を排斥し、世界をもう一度やり直そうとしたのです。


かくして、種族間での争いは終わりを迎え、今度は怪物との戦いの日々が始まりました。


七匹の怪物は非常に強力で、各種族らは死力を尽くして戦いますが、まるで歯が立ちません。


その間にも七災魔からは、さらに小さな怪物たちが生まれ、生命の住まう場所を刻々と奪っていきます。


ベネテラに生きるものたちは、滅びの運命にあるのか。


大地に生きる誰もが、そう諦めかけていた時のことです。


無力なヒト族が、異なる世界から「勇者」と呼ばれる存在を呼びました。


異界の勇者はとても強く、勇敢で、怪物たち相手にも決して引けを取りません。


彼らは勇んで戦いました。例え全滅しようとも、また新たな勇者が世界に現れ、戦いました。


こうして、辛うじて保たれている世界の均衡。再び訪れた長き戦いの日々。七災魔との戦は今なお続いています。


ヒトは信じます。いつか勇者がこの世界から怪物たちを打ち払うと。


ヒトは祈ります。勇敢な勇者が明日もこの世界にやってくると。


そう。それは勇猛果敢な勇者さまが魔を祓う、美しくも華やかな英雄譚のはずでした。


……


……


……


……ところで。


勇者とは一体、何なのでしょうか?

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