第8話 虹色デート




「お、お前。馬鹿にしてるだろ?」


「してないよー」


「ぜってぇ、嘘だろ」


こっちは心配してるっていうのに。

俺の思いなんて知らない佐々木は、言葉を続けていく。



「本当だよ」


「……え?」


「桜田くん、いつも教室で皆と楽しそうに騒いでるから」


「……」


虹希コウキって名前、凄く合ってる」


名前を呼ばれて胸が変に落ち着かなくなる。

でも、いつの間にか彼女からは笑顔は消えていた。



「な、何だよ。急に名前なんてさー」


いつも馬鹿ばっかしかやってないし、騒いでいる様子をいつも女子達は呆れて見てると思っていたから。そんな風に見てくれている女子もいるのだと、こっちが照れるな。






「体育館で、松谷くんに"コーキ"って呼ばれてたからさ」



あ、何となく分かった。


彼女は多分、俺に聞いて欲しい事があるのだと雰囲気で伝わってきた。




「なんで何も聞かないの?」


「……な、にが?」


「倉田先生との噂の事とか」


佐々木の口からはじめて聞いた、"倉田"という名前。心に何かがズシリと重くのし掛かる。

俺は噂の真相を知りたくなかったのだろうか。



「あの雨の日の事とか」


あの雨の出来事も全て、うやむやにしようとしていたのかも知れない。



「言いたいなら、聞いてやるけど……」


素直に聞いてやるよ、なんて言えない俺はまだまだガキなんだろう。



「えっらそうー」


制服のズボンが水分を吸っていき、やけに重たい。そのうち、パンツまで濡れてしまいそうだ。あーあ。帰りの電車はシートには座れないな。

彼女は眉を下げて、俺から視線を外す事なく言葉を続けていく。




「先生が学校を辞めたのはね、卒業生と付き合ってたからなんだよ」


「……」


「女子高生相手なんて、笑っちゃうよね」


「……」


「ねぇ、何で知ってると思う?」


「……」


「私だったら良かったのにね」


ははっと表情に合わない声をあげてから、ぼんやりと空の向こう側に視線を向けた。





「先生の相手 私のお姉ちゃんなんだ」


目の前に俺がいるのに、まるで独り言の様にポツリと呟いた。



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